米雇用市場に急ブレーキ:トランプ政権政策と統計の信頼性への懸念

1日公表された7月の米雇用統計は、米国労働市場が予想外の急激な減速に見舞われている現状を鮮明に示しました。特に注目されたのは、5月と6月分の非農業部門就業者数が大幅に下方修正されたことで、これまで堅調と見られていた雇用情勢に急ブレーキがかかった形です。この結果は、トランプ政権の経済政策、特に高関税政策や移民規制強化が、雇用環境に具体的な影響を与え始めている可能性を浮き彫りにしています。

米雇用市場の急激な鈍化と下方修正の衝撃

最新の米雇用統計では、7月の非農業部門就業者数が市場予想を下回る7万3000人増にとどまりました。さらに衝撃的だったのは、5月が従来の26万8000人増から1万9000人増へ、6月も19万3000人増から1万4000人増へと大幅に下方修正された点です。これにより、過去3ヶ月の雇用増加数は極めて低い水準にとどまり、アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁は米テレビで「雇用が大きく鈍化している明白な兆候だ」と強い警戒感を示しました。

トランプ政権の政策が雇用に与える影響

雇用鈍化の背景には、トランプ政権が進める政策の影響が指摘されています。特に、移民が労働力の大部分を担う建設業やレジャー・接客業では、過去3ヶ月間の伸びが低調でした。ホワイトハウスのミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長も、政権の移民規制強化が進められていることに触れ、「外国出身者の雇用落ち込みが指標に表れた可能性がある」と認めました。

ワシントンで建設作業に従事する労働者。米国の移民規制強化が建設業の雇用鈍化に影響を与えている可能性が指摘されています。ワシントンで建設作業に従事する労働者。米国の移民規制強化が建設業の雇用鈍化に影響を与えている可能性が指摘されています。

さらに、製造業の雇用も3ヶ月連続で1万人を超える減少を記録しており、米金融大手からは「高関税に関連した企業投資の減退などによるもの」との見方が出ています。これは、貿易摩擦を背景とした保護主義的な政策が、国内の製造業の投資意欲を削ぎ、雇用創出に逆風となっている可能性を示唆しています。

統計信頼性への懸念とトランプ氏の対応

米労働市場の予想外の弱さは、トランプ政権にも大きな衝撃を与えました。統計の結果に不満を抱いたトランプ大統領は、「統計が不正に操作された」と主張し、直ちにマッケンターファー労働統計局長を解任するという異例の措置を取りました。

これに対し、エコノミスト団体の全米企業経済協会(NABE)は「解任を強く非難する」と表明しました。声明では、米国の経済指標がその正確性や透明性において「世界基準」と見なされてきたことを強調し、「統計システムへの異例の攻撃は長年の信頼性を脅かす」と警告を発しました。これは、政治的意図によって独立した統計機関の信頼性が損なわれることへの強い懸念を示すものです。

まとめ

7月の米雇用統計が示した急激な雇用市場の鈍化と過去データの異例な下方修正は、米経済の減速を示唆しています。背景には、トランプ政権の移民規制強化や高関税政策が産業構造と雇用情勢に与える影響があると見られています。さらに、統計結果に不満を抱いた大統領による労働統計局長の解任は、経済指標の信頼性に対する国際的な懸念を引き起こしており、今後の米国の経済動向だけでなく、統計システムの独立性にも注目が集まっています。

参考文献