「狂犬」ジェイムズ・マティス将軍:アフガニスタンで兵士が見た「真のリーダーシップ」

2001年9月11日、アルカイダによる同時多発テロが発生。米国はアフガニスタンへ部隊を派遣し、若き海兵隊少尉だった筆者もその地に赴いた。そこで筆者が出会ったのが、後に「狂犬(マッドドッグ)」の異名を取り、トランプ政権で国防長官にまで上り詰めたジェイムズ・マティス将軍である。本稿では、戦場の兵士が目撃した、マティス将軍の「真のリーダーシップ」の核心に迫る。

「狂犬」マティス将軍、戦場での兵士への言葉

砂地を進む筆者たちの前に現れたのは、見慣れない階級章をつけた人物、第58任務部隊を率いるマティス将軍(当時、准将)だった。戦場では敵に狙われるため将校への敬礼はしないが、筆者と旧友のジムは活気みなぎる挨拶で敬意を示した。

眼鏡をかけ、すらりとした体格の将軍は、前置きもなく、いきなり彼らのアフガニスタンでの任務を称賛した。「君たちはここで既に大きな貢献をしている。米国にアフガニスタンの地上に部隊を送る度胸があることを証明しているんだ。君たちの存在が北部同盟に勇気を与え、カンダハールでタリバンとアルカイダに圧力をかけている。アメリカ国民が不安な時に、安心を与えているのは君たちだ」。

マティス将軍は、力強く握手を交わしながら、もう片方の手で相手の肘の後ろをつかむという、彼らしい握手で一人ひとりと向き合った。兵士たちは誇らしい気持ちで将軍との対話を終え、本部のテントへと向かった。

アフガニスタンの砂漠で任務にあたる米海兵隊員。ジェイムズ・マティス将軍のリーダーシップの背景として。アフガニスタンの砂漠で任務にあたる米海兵隊員。ジェイムズ・マティス将軍のリーダーシップの背景として。

極寒の夜、将軍が見せた「部下との一体感」

別の日、真夜中過ぎに筆者は小隊の防御線を歩き、隊員たちの様子を見て回っていた。周囲100キロ四方の環境照明はすべて消え、内燃エンジンの音もほとんど聞こえない。空気が澄みすぎて、はるか遠くのヘッドライトや焚火に見えたものが、実は星の昇る光だったと報告する巡察中の隊員もいるほどの静寂と暗闇に包まれていた。

その防御線に沿ってさらに進むと、滑走路の端に近い砂利だらけの平地の真ん中に、もう一つの戦闘壕があった。その極寒の闇の中、筆者は驚くべき光景を目にした。マティス将軍が、凍える夜にもかかわらず、部下の隊員たちと共にその戦闘壕の中にいるのだった。将軍は自ら危険な前線に赴き、兵士たちと同じ環境に身を置くことで、言葉ではなく行動で彼らへの深い理解と共感を示した。

この行動は、単なる視察ではない。それは兵士たちの士気を高め、将軍が常に彼らのそばにいるという安心感を与えるものであった。マティス将軍は、最も過酷な状況下においてすら、部下との距離を縮め、彼らの安全と精神状態を真摯に慮る「真のリーダーシップ」を体現していたのだ。

マティス将軍がアフガニスタンの戦場で示したリーダーシップは、単なる指揮官の役割を超越していた。彼は兵士一人ひとりの貢献を認め、不安に寄り添い、極限状況下で自らも彼らと同じ場所に立つことで、揺るぎない信頼関係を築いた。「狂犬」の異名とは裏腹に、その行動は兵士への深い敬意と人間的温かさに満ちており、これこそが「真のリーダーシップ」の核心である。このエピソードは、いかなる組織においても、真のリーダーが備えるべき人間中心の指導力の重要性を明確に示している。

参考文献:
ナサニエル・フィック 著、岡本麻左子 訳. 『死線をゆく アフガニスタン、イラクで部下を守り抜いた米海兵隊のリーダーシップ』 KADOKAWA, 2011年.