米国では、黒人やアジア系住民に対する人種差別が存在すると認識する国民の割合が2021年と比べて大幅に減少していることが、AP通信とNORC公共問題研究センターが成人1437人を対象に実施した最新の世論調査で明らかになりました。同時に、DEI(多様性・公平性・包括性)プログラムに対する国民の懐疑的な見方も広がり、特にトランプ政権がDEIプログラムを推進する大学や企業を標的にする中で、この問題は政治的な対立軸となっています。
米国における人種差別認識の変化
最新の調査結果によると、黒人に対し「非常に大きい」または「かなり大きい」差別が存在すると回答した米国成人は約45%で、ジョージ・フロイド氏殺害後の抗議行動から1年後に行われた2021年の調査から16ポイント低下しました。アジア系米国人についても同様の差別認識を示した割合は、2021年の46%から2025年には32%へと14ポイント減少しています。ヒスパニック系および白人に対する差別認識も低下しましたが、その幅は比較的小さく、それぞれ44%(2021年の48%から減少)と15%(同18%から減少)でした。
宗教別にでは、国民のほぼ半数がイスラム教徒に対し「非常に大きい」または「かなり大きい」差別を受けていると考えており、ユダヤ教徒については35%が同様の認識を示しています。さらに、正規の在留資格を持たない移民が「非常に大きい」または「かなり大きい」差別を受けていると考える米国人の割合は58%と、すべての属性の中で最も高い結果となりました。
DEIプログラムへの賛否と政治的対立
DEIプログラムについては、国民の間で意見が二分されています。およそ3割の回答者は、DEIプログラムが白人を含む多数派の人種・民族グループへの差別を拡大させていると考えています。一方で、約3分の1は女性、ヒスパニック系、アジア系に対する差別を減少させていると感じており、約4割は黒人に対する差別も減らしていると回答しました。
2020年5月のジョージ・フロイド氏殺害後、人種的不安は構造的人種差別や警察の役割に対する批判を強め、官民両セクターでDEIプログラムの拡充を求める動きを加速させました。ジョー・バイデン前大統領は就任後、教育機関、連邦政府、住宅市場でDEIプログラムの強化と認知向上を推進しました。
米国での人種差別抗議活動の様子。ジョージ・フロイド事件後のDEI推進を求める声が高まった背景を示す。
これに対し、ドナルド・トランプ大統領は政府のDEIプログラムを「過激」かつ「無駄」と批判し、DEI施策を廃止しない公共機関への政府資金停止を警告しています。この反DEI姿勢は企業にも波及し、米連邦通信委員会(FCC)は最近、SkydanceがDEI考慮を終了することを条件に、パラマウントとの合併を承認しました。また、トランプ大統領は米国内の非合法移民を標的とした大規模な強制送還計画を打ち出し、ロサンゼルスなど大都市での抗議活動を招いています。
結論
今回の世論調査は、米国社会における人種差別認識の変化と、DEIプログラムを巡る複雑な議論、さらにはそれが政治的対立に発展している現状を浮き彫りにしています。人種差別に対する認識が低下する一方で、DEIプログラムの有効性や公平性に関する意見の相違は依然として大きく、今後の米国の社会・政治動向に影響を与え続ける重要な問題と言えるでしょう。
参考文献
- AP通信
- NORC公共問題研究センター
- Yahoo!ニュース(Forbes JAPAN掲載記事)