韓米両国の経済協力、特に造船分野における新たな試み「MASGA(Make America Shipbuilding Great Again)プロジェクト」が、その実行戦略に注目を集めています。これは、老朽化した米国の造船業に約1500億ドル(約22兆円)を投資し、韓国が培ってきた高い技術力と生産性を移植することを目標とする大規模な取り組みです。このプロジェクトが成功すれば、韓国は安全保障と産業の両面で韓米同盟をさらに強化する機会を得るとともに、韓国の主要造船会社は海外市場への進出を加速させることが期待されています。しかし、その実現には数々の挑戦が伴い、もし期待通りの成果が得られなければ、韓国企業にとって大きな負担となるリスクもはらんでいます。
米国ホワイトハウスで関税交渉妥結後、ドナルド・トランプ元大統領(当時)と韓国政府貿易交渉団が記念撮影する様子。
MASGAプロジェクトの目標と韓国造船業界の期待
MASGAプロジェクトは、2023年7月の韓米関税交渉妥結に寄与した対米造船業投資ファンドとして注目を集めています。韓国の造船大手であるHD韓国造船海洋、ハンファオーシャン、サムスン重工業の3社と、韓国造船海洋プラント協会は、このプロジェクト推進のため特別作業班を構成し、米国の造船市場における共同での機会を模索しています。この取り組みは、単なる投資にとどまらず、米国の防衛産業基盤を強化しつつ、韓国造船技術の世界的な展開を図るという壮大なビジョンを持っています。
成功の鍵は「熟練人材の確保」
MASGAプロジェクトの成功に不可欠とされるのは、米国での熟練人材の確保です。造船業は労働集約型産業であり、大規模な専門人材を必要とします。しかし、米国では第二次世界大戦後に造船業が衰退した歴史的背景があり、教育機関や産業現場で造船専門人材を十分に輩出できていない現状があります。
この人材不足に対応するため、具体的な動きが始まっています。例えば、昨年末に米フィリー造船所を買収したハンファグループは、韓国から約50人の熟練人材を米国に派遣し、現地の教育生に溶接などの核心技術を訓練させています。同社は、現在1800人の現地造船所の人員を2030年までに3000人規模まで拡大する計画です。また、HD現代もソウル大学やミシガン大学と連携し、韓国の造船所で技術訓練を受けさせた後、米国に派遣する教育プログラムの準備を進めています。ある造船企業役員は、米国の造船所が1970~80年代の旧式の溶接機を使っている状況を指摘し、「施設現代化に加え、人材の採用と育成は大きな挑戦になるだろう」と語っています。ソウル大学造船海洋工学科のイ・シンヒョン教授は、低賃金の海外人材投入を可能にする制度新設など、米国政府への支援要請も有効な方法だと提案しています。
高度な協業と克服すべき法的障壁
現地で人材を育成するにしても、米国の造船所で高付加価値船舶を建造できるレベルに達するには、相当な時間がかかる可能性が高いと見られています。そのため、韓国で製作した船舶ブロックを米国の造船所で組み立てるなど、多様な協業を試みる必要性が指摘されています。
しかし、そのためには米国の既存の法規制というハードルを越える必要があります。これには、両国政府間の協議と支援が不可欠です。代表的なものに、米国で建造され、米国の乗組員が運航する商船だけが米国の港湾に出入りできると定めた「ジョーンズ法」の改正が挙げられます。この法律は、世界的な競争を遮断し、米国の造船所を「井の中の蛙」にしてきた主要因の一つとされています。
また、米軍艦の建造を米国内に限定する「バーンズ・トレフソン修正法」も障害となっています。しかし、中国の海軍力増強を意識する米議会では、この法律の例外を認め、同盟国の造船所での軍艦建造を許容する「海軍準備態勢保障法」が2月に発議されました。この法案が通過すれば、韓国の造船会社は韓米双方の造船所で軍艦などを建造できるようになります。韓国国内でも、共に民主党の李彦周(イ・オンジュ)議員が先月31日に「韓米造船産業協力増進と支援法」の制定案を代表発議し、韓国国内に米軍艦などを建造できる防衛産業基地特別区域を指定することを提案しています。
韓国造船産業にもたらされる長期的な恩恵
韓国の造船業界は、こうした困難を克服し、米国市場へ進出した際に得られる大きな果実を期待しています。特に、大企業の米国進出に伴い、船舶エンジンなどの資機材供給網市場の拡張効果が大きくなると見られています。仁荷(インハ)大学造船海洋工学科のイ・チャンヒョン教授は、「韓国の強小企業が大企業とともに進出するならば、韓国造船産業全体の成長に大きく役立つだろう」と述べ、サプライチェーン全体での相乗効果に期待を寄せています。
まとめ
MASGAプロジェクトは、単なる経済投資にとどまらず、韓米両国の安全保障と産業協力の新たな形を提示するものです。熟練人材の育成、法的障壁の克服、そして戦略的な協業モデルの構築が成功の鍵を握ります。これらの課題を乗り越えられれば、米国の造船業は活性化し、韓国の造船会社はグローバル市場での競争力を一層高め、両国間の同盟関係もより強固なものとなるでしょう。今後のプロジェクトの進展と、それがもたらす韓米関係の変化が注目されます。