202X年8月4日、英国ロイヤルポースコール・ゴルフクラブで開催されたLPGAツアーメジャー大会「AIG女子オープン」で、日本の山下美夢有が通算11アンダーで優勝を果たしました。最終ラウンドを2アンダーの70で回り、チャーリー・ハル(英国)と勝みなみ(日本)を2打差で上回る快挙です。同大会では、1打差2位でチャンピオン組からスタートしたキム・アリム(韓国)も一時首位に立つ健闘を見せたものの、最終的には通算7アンダーの4位タイで終えました。2023年初めから今大会までの純粋なLPGAツアー(共同主管大会除く)における国別の優勝数を見ると、韓国人選手が12勝、日本人選手が6勝と、依然として韓国が選手数と優勝数で上回り、世界ランキングも日本人選手より高い傾向にあります。しかし、メジャー大会ではこの様相が一変。日本の6勝のうち4勝がメジャー大会でのものであり、対照的に韓国は同期間にメジャー優勝がわずか1度にとどまっています。
AIG女子オープン優勝の山下美夢有が優勝カップにキスする姿。
日本人選手は、たとえ優勝できなくともメジャー大会での成績が韓国勢を上回る傾向にあります。特に韓国人選手が強みを発揮してきたUS女子オープンでも、今年は日本人選手が3ラウンド中盤まで1~3位を独占する展開を見せました。そして今大会でも、山下美夢有の優勝に加え、勝みなみが2位タイ、竹田麗央が4位タイに入るなど、その存在感を強く示しています。もはや日本人選手がメジャー大会で韓国人選手を上回ることが「普通」となりつつあるこの現状。なぜ、日本の女子ゴルフはメジャー大会でこれほどまでに強いのでしょうか。
メジャーへの強い「欲望」と「自信」が原動力
日本人選手がメジャー大会で際立った強さを見せる背景には、彼女たちのメジャーに対する並外れた「欲望」と、特定のスター選手から受け継がれる「自信」があります。その中心には、二人の日本のゴルフスターの存在が深く関わっています。
一人目は、LPGAで9勝を挙げ、世界ランキング1位にまで登り詰めながらもメジャー優勝には手が届かなかった宮里藍です。彼女を見て育った「宮里キッズ」と呼ばれる世代の選手たちは、宮里藍が達成できなかったメジャータイトル獲得という目標を自らの使命と捉えています。まるで戦場に向かう侍のように、メジャー大会には並々ならぬ真剣さで臨む姿勢が特徴です。
二人目は、2019年に日本人として42年ぶりにLPGAメジャー優勝という偉業を成し遂げ、国民的英雄となった渋野日向子です。彼女は国家代表の経験がないにもかかわらずメジャーを制覇したことで、「渋野ができたのだから私たちにもできる」という強い自信を後の世代に与えました。身長150センチと女子ゴルフ選手としては小柄な山下美夢有選手も、こうした自信を胸に、長身の選手に臆することなく戦い抜きました。
困難なコースでの「適応力」と「基本技」の優位性
メジャー大会のコースは総じて難易度が高く設定されており、日本人選手はこのような挑戦的なコースで特に頭角を現します。この強さの根底には、日本のジュニア育成環境と、そこで培われる高い基本技術と創造性があります。ゴルフ場が豊富にある日本では、多くのジュニア選手が幼い頃から天然芝の練習場で無料で練習する機会に恵まれています。これにより、ショートゲームなどの基本技を徹底的に磨き、状況に応じた創造的なプレー能力を養うことができます。一方で、韓国の選手は主にマットでの練習が中心となる傾向があり、この練習環境の違いが、難コースでの対応力に差を生んでいる可能性があります。
また、日本人女子選手がゴルフのメジャー大会に本格的に進出し始めたのは比較的最近のことです。毎年同じコースで開催される一般大会では、そのコースに精通したベテラン選手が有利となる傾向があります。しかし、毎年新たなコースで開催されるメジャー大会においては、経験の浅い新人クラスの日本人選手も不利になることなく、むしろ新しい環境への適応力と持ち前の基本技で力を発揮しやすいと言えます。
「メジャーハンター」としての台頭と将来性
日本人選手は、ブルックス・ケプカ(米国)が「メジャーハンター」と呼ばれるように、大舞台で強さを発揮する傾向が見られます。これは、彼女たちがメジャー大会の独特のプレッシャーや難易度の高いコースセッティングに対して、精神的にも技術的にも優れた対応力を持っていることを示唆しています。
彼女たちは現在、LPGAツアー全体に適応しつつあり、今後は一般大会においてもその能力をさらに発揮していくものと見られます。米ゴルフウィーク誌も「女子ゴルフにおける日本の活躍は今後もっと大きくなるだろう」と報じており、日本人女子ゴルフ界のさらなる躍進が期待されています。メジャー大会での成功体験は、彼女たちの自信と経験値を高め、LPGAツアーにおける全体のパフォーマンス向上にも繋がるでしょう。