トランプ前大統領の貿易交渉戦略:「市場開放」主張と「恐喝」批判の狭間

ドナルド・トランプ前米大統領は、各国との貿易交渉において「閉鎖された市場を開放した」と主張する一方で、その強圧的な交渉手法が国内外から「恐喝」であるとの批判に晒されています。特に韓国市場の開放や、日本、欧州連合(EU)からの巨額な対米投資を引き出したとされる合意は、トランプ氏の成果と見なされる一方で、その実現性や正当性について疑問の声が上がっています。

トランプ氏が主張する「市場開放」の成果

トランプ前大統領は、5日のCNBCとのインタビューで、韓国との貿易交渉に言及し、「韓国は市場を開放しただけでなく、途轍もない事業になるだろう」と述べました。特に自動車、トラック、スポーツ用多目的車(SUV)の販売が「閉鎖された国」であった韓国で可能になったことを強調。これは、自動車の安全・環境基準などの非関税障壁が、今回の交渉で米国基準に緩和されたことを指すとみられます。

また、EUが約束した6000億ドル規模の対米投資についても、「それはプレゼントだ。貸付のようなものではない。返すべきものは何もない」と語り、その成果を誇示しました。

トランプ前大統領が専用機エアフォース・ワンに搭乗する直前、貿易交渉の進捗について記者団と話す様子。トランプ前大統領が専用機エアフォース・ワンに搭乗する直前、貿易交渉の進捗について記者団と話す様子。

強圧的な交渉手法と「集金」批判

しかし、米国内ではトランプ政権の関税交渉方式に対し、強圧的であるとの批判が上がっています。ニューヨーク・タイムズ紙は4日、トランプ政権の関税政策を「冷静な集金」と表現。貿易相手国に大規模投資の約束など「金銭を見せる」よう要求し、応じなければ天文学的な関税で威嚇するという手法を指摘しました。

同紙は、韓日・EUとの関税交渉を例に挙げました。トランプ前大統領は、韓国に対し25%の関税を予定していたところ、韓国側が3500億ドルの投資と1000億ドルの液化天然ガス(LNG)購入を条件に、関税率を15%に引き下げたと発表。日本も5500億ドルの対米投資を条件に関税率を25%から15%に引き下げ、EUも6000億ドルを投資する条件で15%への合意に至ったとされます。

非現実的な投資約束と専門家の懐疑的な見方

通商専門家の間では、トランプ前大統領が「貿易パートナー」と交渉しているのか、それとも「貿易の人質」と交渉しているのか疑問だという声も聞かれます。保守系のケイトー研究所のスコット・リンシカム副所長は「疑う余地なく世界的恐喝だ」と指摘しています。

各国が発表した対米投資規模があまりにも大きく非現実的という指摘もあります。米商務省によると、2024年の海外からの対米投資総額は1510億ドルに過ぎず、韓国、日本、EUが約束した対米投資総額1兆5000億ドルは、そのおよそ10倍に相当します。オバマ政権時に米通商代表部(USTR)代表を務めた米外交問題評議会(CFR)のマイケル・フロマン会長は、「合意内容の実際の意味は、合意を発表した国ですら疑わしいだろう」と指摘。コロンビア大学ビジネススクールのダニエル・エイムズ教授は「トランプ大統領の虚栄心を刺激する戦略かもしれない」との見方を示しました。

トランプ前大統領の貿易政策は、彼自身の「市場開放」という主張と、専門家からの「強圧的」「非現実的」という厳しい批判との間で、その評価が大きく分かれています。これらの交渉が国際貿易秩序にどのような影響を与えるのか、引き続き注視が必要です。