近年、日本各地でクマによる人身被害が相次いでいますが、特に秋田県ではその深刻さが増しています。環境省によると、令和7年度のクマによる死亡事故は10月27日時点で既に10件に達しており、緊急猟銃の実施判断が行われ発砲に至った事例も7件に上ります。こうした状況を受け、秋田県の鈴木知事は、事態が自治体の対応能力を超えるとして、防衛省に対し自衛隊の派遣を正式に要望しました。この動きは、クマによる被害対策が新たな局面を迎えていることを示唆しており、自衛隊がどのような形で関与し得るのか、その法的枠組みにも注目が集まっています。
秋田県知事の緊急要望:自治体だけでは限界に
秋田県の鈴木知事は、自身のInstagramを通じて「状況はもはや県と市町村のみで対応できる範囲を超えており、現場の疲弊も限界を迎えつつある」と述べ、防衛省へ自衛隊派遣を要請するに至った背景を説明しました。特に被害件数が多い鹿角市では、担当者が「クマが市街地の周りの里山を突破して、日常的に市街地の中に侵入し、目撃されるという状態が続いています。その結果、市街地では人身事故も多発しています。『市街地の住家にクマが立てこもる』という事態が日常的に発生している状況です」と現状の深刻さを訴えています。
秋田県での深刻なクマ被害を受け、記者会見で自衛隊派遣を要望する鈴木知事。背景には人身被害の増加と自治体対応の限界がある。
鹿角市の担当者はさらに、クマ対策にあたる人手の不足を指摘し、「とにかくクマの出没件数が多い。それに尽きます。現場の対応も頑張ってはいますが、手が足りません。(中略)対策を講じるための人手が足りない状態なので、(自衛隊に)人手を貸していただけるのは大変ありがたいです。捕獲に限って言いますと、法令などもありますので、できる範囲で対応をしていただければと考えています」と、自衛隊への期待と、その活動範囲における法的制約への理解を示しました。住民の安全を守るための緊急的な人手不足が、自衛隊派遣という異例の要請に繋がっています。
自衛隊派遣の法的側面:実弾使用の厳しい現実と代替策
自治体のクマ被害対応が限界に達し、自衛隊の派遣が検討されている中で、そもそも自衛隊が派遣された場合にどのような対応が可能なのでしょうか。元陸上自衛隊隊員で、レンジャー五領田法律事務所の代表を務める五領田弁護士は、この問いに対し、現状の法律では自衛隊員が実弾(発砲)の使用を許される場面は事実上ないに等しいと指摘します。クマに遭遇した場合であっても、警察官や猟友会以上に「見えない縛り」が存在するというのが彼の見解です。
しかし、五領田弁護士は別の有効な手段があるとも話します。「発砲しなくても『銃剣』を用いて何人かで駆除する、という形で十分対応できます。銃剣は普段は研いでいないのですが、法律上、銃剣を研ぐことに法律上の制約はありません。ですから、発砲せずとも、研いだ銃剣でクマを駆除することはできます」。彼は、銃剣道が白兵戦のための武術であり、その能力が非常に高いことから、クマに対しても効果的であると強調しました。これは、自衛隊が人手不足の解消だけでなく、特定の条件下で具体的な駆除活動にも貢献し得る可能性を示唆しています。
クマ被害対策に積極的に取り組む姿勢を見せる新たな防衛大臣。秋田県からの自衛隊派遣要請への対応が注目される。
秋田県で深刻化するクマ被害は、自治体のみでの対応が困難なレベルに達しており、自衛隊への派遣要請という事態を引き起こしました。この状況は、人身被害の増加だけでなく、市街地へのクマ侵入が常態化している現状と、それに伴う現場の人手不足という複合的な問題を浮き彫りにしています。自衛隊の派遣が実現した場合、その役割は主に人手による支援に限定される可能性がありますが、法的に許容される範囲での代替手段として、銃剣を用いた駆除の可能性も専門家によって示唆されています。今回の事態は、野生動物との共存を模索する中で、既存の法制度や対策が直面する課題を改めて提起しており、今後、国と地方自治体、そして専門家が連携し、より実効性のあるクマ被害対策を構築していくことが求められます。
参照元:Yahoo!ニュース





