日本が誇る大ヒット映画シリーズ「トラック野郎」が、公開から50周年を迎えるのを記念し、2024年8月と9月の2ヶ月間にわたり、東映チャンネルで全10作品が一挙放送されることが決定しました。菅原文太演じる「一番星の桃次郎」と、愛川欽也扮する「やもめのジョナサン」が、ギンギラに飾り付けられたデコトラに乗って日本中を爆走するこのシリーズは、日本のデコトラ文化を全国に広めるきっかけともなりました。半世紀にわたり愛され続ける「トラック野郎」シリーズの魅力を再確認する絶好の機会となるでしょう。
トラック野郎 御意見無用 のポスター。デコトラを背景に菅原文太演じる一番星の桃次郎が描かれ、映画公開50周年記念放送を告知している。
爆走するデコトラ!「トラック野郎」シリーズの尽きせぬ魅力
「トラック野郎」シリーズは、主人公の星桃次郎がトラックで全国各地へ荷物を配送する道中、その土地のマドンナに恋をし、ライバルのトラック運転手とワッパ(運転)や腕っぷしで勝負を繰り広げるという、痛快な物語が展開されます。そしてクライマックスでは、時間的にも距離的にも不可能と思われる配送仕事を請け負い、警察の追跡をかわしながら爆走して荷物を届けるという、手に汗握る展開が待っています。
ジョナサンこと松下金造との軽妙な掛け合いが光るコメディ要素、マドンナとの切ないラブロマンス、迫力満点のカーアクションなど、多岐にわたるエンターテインメント要素が凝縮された娯楽大作として、幅広い層の観客を魅了しました。
このシリーズの誕生は、アメリカのテレビドラマ『ルート66』(1960~1964年)で声優を務めていた愛川欽也氏が、同作のようなコンビを主役にしたロードムービーを日本で実現できないかと考えたことに端を発します。当時、日本で流行の兆しを見せていたデコレーション・トラック(デコトラ)に目をつけ、このアイデアを、当時自身が司会を務めていたテレビ番組『リブ・ヤング!』にゲスト出演した菅原文太氏に持ちかけました。両氏はこの企画に意気投合し、東映の岡田茂社長に直談判。その熱意が実り、映画化へのゴーサインが出されたのです。
映画「トラック野郎 天下御免」のワンシーン。菅原文太演じる桃次郎と愛川欽也扮するジョナサンがトラックの運転席で並んでおり、シリーズのコミカルな魅力を表現している。
マドンナたちの競演と「男はつらいよ」超えの興行成績
当初、「トラック野郎」はシリーズ化の予定はありませんでした。しかし、1975年8月30日に公開された第1作「トラック野郎 御意見無用」が大ヒットを記録したことから、東映の盆と正月を彩る人気シリーズへと急成長を遂げました。桃次郎が毎回マドンナに失恋するエピソードが盛り込まれていたのは、同時期に公開され、興行収入で競合していた松竹の「男はつらいよ」シリーズを強く意識してのことでした。
歴代のマドンナの顔ぶれも、本シリーズの大きな魅力の一つです。第1作の中島ゆたかを皮切りに、映画初出演となったあべ静江(第2作)、島田陽子(第3作)、由美かおる(第4作)、片平なぎさ(第5作)、夏目雅子(第6作)、原田美枝子(第7作)、大谷直子(第8作)、小野みゆき(第9作)、そして第10作の石川さゆりと森下愛子といった、当時の人気アイドル女優やCMキャンペーンガールとして注目された20代のフレッシュな面々が名を連ねています。当時40代だった主演の菅原文太に対して、マドンナたちは見た目にも年下の存在。しかし、その彼女たちに一途な想いを寄せる桃次郎の“おじさんの純情”が、観客に笑いと同時に切なさをもたらしました。
「トラック野郎 度胸一番星」のメインビジュアル。鮮やかに装飾されたデコトラをバックに、桃次郎とマドンナが並び、シリーズ独特の恋愛模様と華やかな世界観を示している。
興行成績においても、「男はつらいよ」シリーズとの同日公開対決は注目されました。特に、第4作「トラック野郎 天下御免」(1976年)からは配給収入で「男はつらいよ」を上回り、第7作「トラック野郎 男一匹桃次郎」(1977年)まで数字的にリードを保つという快挙を達成。これは、単なる娯楽映画としてだけでなく、当時の日本映画界における確固たる地位を築いた証でもあります。
半世紀の時を経てなお、その魅力が色褪せることのない「トラック野郎」シリーズ。今回の全10作一挙放送は、往年のファンにとっては懐かしい記憶を呼び覚ます機会となり、初めて観る世代にとっては、日本が誇る痛快娯楽作の真髄に触れる貴重な体験となるでしょう。ぜひこの機会に、デコトラが日本中を駆け巡る「一番星」の勇姿と、桃次郎の純情な恋模様を東映チャンネルでご堪能ください。
参考文献
- 「トラック野郎 御意見無用」公開50周年を記念してシリーズ全10作を2カ月連続放送! 笑いと涙と恋の痛快娯楽作を再確認 (Yahoo!ニュース / キネマ旬報WEB)