『鬼滅の刃』無限城編:水柱・冨岡義勇の実力と竈門炭治郎の成長、その決定的な差を考察

新作劇場版「『鬼滅の刃』無限城編 第1章・猗窩座再来」では、主人公である竈門炭治郎の目覚ましい成長が描かれている。鬼狩りの剣士としての「立志編」から、激しい死闘が繰り広げられた「柱稽古編」に至るまで、炭治郎は幾度となく見違えるほどに強くなってきた。しかし、数多の鬼が蠢き、異次元の強さを誇る上弦の鬼が待ち受ける「無限城」での戦いにおいては、水柱・冨岡義勇の助力なくしては進めない局面が多々あった。炭治郎は「柱に届く実力」とも称される一方で、猗窩座との戦闘シーンでは、やはり義勇との間に明確な“実力差”が垣間見える。この差は一体どれほどのものなのか。新刊「鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論」を著した四天王寺大学文学部の植朗子准教授の考察を交え、その深淵に迫る。

無限城での冷静な判断力:冨岡義勇と他柱の比較

鬼の始祖・鬼舞辻無惨の策略により、鬼殺隊の多くが鬼の本拠地である「無限城」へと落とされた。この深く途方もない奈落への落下時、隊士たちの反応は様々だった。戸惑いながら落下する者もいれば、冷静に対処する者もいた。

「何だここは…!! 上下左右めちゃくちゃだ 敵の血鬼術で造られた場所なのか!?」と、自身の置かれた状況に混乱し、「落下の圧で踏ん張りがきかない」と焦る竈門炭治郎の姿は、劇場版において原作コミックス版よりも詳細に描写されている。同様に、「柱」である甘露寺蜜璃は伊黒小芭内に庇われ、最年少の柱である時透無一郎も悲鳴嶼行冥によって時にフォローされる様子が見られ、無限城という特殊な空間が隊士たちに与える影響の大きさが浮き彫りになる。

そんな極限の混乱の中にあっても、水柱の冨岡義勇は類まれなる判断力と落ち着きを見せた。体勢を立て直すことも、技を出して落下の軌道を変えることも、建物をつかむこともできない炭治郎が窮地に陥る瞬間、義勇は片腕で彼を掴み、すぐ下の階の安全な床へと投げ飛ばすことに成功した。

弟弟子を導く経験値:義勇の迅速な対応

着地後、襲いかかる鬼に対処しようとする炭治郎に対し、義勇は彼のわずかな動きを瞬時に把握し、何の技を出すかを予測した上で、自分も技を繰り出すという連携を見せた。

「義勇さんが凄い… 俺の僅かな動きで 何の技出すか 把握 その後に自分も技を出して お互いが斬り合わないように動く この人やばい」

炭治郎の心の声からも、義勇の判断の速さと技の精度の高さが伺える。あの場に冨岡義勇がいなければ、竈門炭治郎は何らかの負傷を負っていた可能性が高く、水柱としての経験値と対応能力が、極限状況下でいかに重要であるかを物語っている。

水柱としての圧倒的な実力:流麗なる剣技の真髄

無限城の混乱が始まったばかりのわずかな時間でさえ、観る者には冨岡義勇が「水柱」である明確な理由が示される。数多くの鬼が潜み、建物自体が状況に応じて形や位置を変える「無限城」は、単純な走行移動すら危険が伴う場所だ。突如として城が鳴動し始めた際には、義勇は天井位置から上弦の参・猗窩座が現れることを素早く察知する。

猗窩座の攻撃を確認しながら、他の「水の呼吸」の剣士では到底出せないスピードで、滑らかな連続技を披露する。彼の「参ノ型 流流舞い」、「拾壱ノ型 凪」、「弐ノ型 水車」といった技の威力と美しさは、敵である猗窩座が「流麗!! 練り上げられた剣技だ 素晴らしい」と、思わず叫ぶほどであった。

冨岡義勇の冷静な構え:『鬼滅の刃』無限城編における水柱の姿冨岡義勇の冷静な構え:『鬼滅の刃』無限城編における水柱の姿

竈門炭治郎もまた、十二鬼月との繰り返される戦闘で経験を積み、「ヒノカミ神楽」を使いこなせるようになっていたが、技と技の“接続”においては義勇ほど巧みではない。その差は戦場で顕著に現れ、猗窩座にその隙を突かれて攻撃される場面も描かれている。この段階では、炭治郎には依然として義勇のフォローが必要不可欠であり、水柱・冨岡義勇が持つケタ違いの実力が、無限城という過酷な戦場においてどれほど重要な意味を持つかが明確に示されている。

結論

冨岡義勇と竈門炭治郎の実力差は、単なる技の威力やスピードだけではなく、極限状況下での冷静な判断力、豊富な経験に裏打ちされた素早い対応、そして何よりも技と技の「接続」における流麗さに現れている。無限城という予測不能な戦場では、炭治郎の成長をもってしても、義勇のような柱の存在が不可欠であることが強調された。この戦いを通じて、炭治郎は更なる成長を遂げることとなるが、その道のりには義勇の導きと協力が欠かせない。彼らの共闘は、今後の「無限城編」における重要な見どころの一つとなるだろう。

参考文献

  • 植朗子『鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論』
  • 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』集英社
  • 『鬼滅の刃』公式HP
  • 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』