外惑星K2-18bの生命兆候は幻か?NASA新観測がDMS否定、水の惑星を確認

昨年4月、国際的に大きな注目を集めた外惑星K2-18bの「生命の兆候」に関する発表は、その後の新たな観測結果によって、根拠が弱いことが明らかになりました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた最新の詳細な分析により、地球の生命活動によって生成される特定の化合物の存在は確認されませんでした。しかし、このK2-18bが水が非常に豊富な天体であるという点は改めて確認されており、太陽系外の液体水環境の研究対象として依然として重要な惑星です。

外惑星K2-18bにおける初期の「生命の兆候」とその議論

2023年、英国ケンブリッジ大学のニック・マドゥスダン教授率いる研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を活用し、地球から124光年離れた恒星を公転する外惑星「K2-18b」の大気を2回にわたり観測しました。その結果、地球の生物、特に海洋植物プランクトンである藻類のような微生物によって生成されるジメチルスルフィド(DMS)とジメチルジスルフィド(DMDS)の存在を強く示唆する信号を発見したと発表しました。研究チームはこれを「太陽系外での生物学的活動に対する史上最も強力な証拠」だと主張し、大きな反響を呼びました。

外惑星K2-18bが主星を公転する想像図。水が豊富で生命が存在する可能性が検討された惑星の姿外惑星K2-18bが主星を公転する想像図。水が豊富で生命が存在する可能性が検討された惑星の姿

当時も、この観測データの解釈を巡って科学界で議論が巻き起こり、明確な合意点を見いだすには至りませんでした。K2-18bは、その恒星のハビタブルゾーン(液体の水が存在しうる領域)内を公転するサブネプチューン型惑星として、生命存在の可能性が長らく注目されてきたため、この発表はさらなる関心を集めることとなりました。

NASAによる詳細観測:DMSの証拠は未発見

こうした状況の中、米国航空宇宙局(NASA)の研究チームが、JWSTを利用してK2-18bをさらに詳細に観測しました。その結果、ケンブリッジ大学の研究チームが「生命の信号」だと主張したジメチルスルフィド(DMS)などの気体の証拠は見つからなかったと、プレプリントサーバーのarXiv(アーカイブ)に投稿しました。NASAの研究チームは、仮にこれらの気体が存在したとしても、生命活動によるものではなく、単純な化学反応を通じて形成された可能性も指摘しており、「生命体の信号は蜃気楼だった可能性もある」と結論付けています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2023年に観測した外惑星K2-18bの大気スペクトルデータジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2023年に観測した外惑星K2-18bの大気スペクトルデータ

科学者たちは、惑星が主星の前を通過する際に、惑星の大気分子が恒星から放出される光と反応し、その波長がどのように変化するかを観測することで大気の成分を把握します。NASAの研究チームは、昨年この方法でK2-18bを2024年から2025年にかけて4回にわたり観測し、その後ケンブリッジ大学の科学者たちと共同で、これまでのすべての観測データを詳細に分析しました。

K2-18b:水が豊富な「水の惑星」であることの確認

今回の研究を率いたNASAジェット推進研究所(JPL)の胡仁宇(Hu Renyu)博士は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、この詳細な分析によってK2-18bのいくつかの特性が明確になったと語りました。

第一に、この惑星の大気中にはメタンだけでなく二酸化炭素も存在することが判明しました。これは、K2-18bの大気組成が地球とは大きく異なることを示唆しています。

第二に、K2-18bは水が非常に豊富な天体であることが確認されました。その全質量の最大で半分を水が占める可能性があるという驚くべき結果です。研究チームは、水が正確にはどのような状態で存在するかは不明であるとしながらも、一部は惑星内部で氷として存在し、また一部は表面で液体の海を形成している可能性もあると付け加えています。

しかし、ジメチルスルフィド(DMS)の存在を示す証拠は発見できませんでした。研究チームは、この物質が存在する可能性は非常に低いか、あるいはその濃度がきわめて低く、今後も明確には検出されないだろうと予想しています。オックスフォード大学のジェイク・テイラー教授は、科学専門誌「ニュー・サイエンティスト」に対し、観測の精度がより高まった点を指摘し、「ジメチルスルフィドが大気から検出可能なほど存在するのかどうかについての論争は終わったようだ」と述べています。

なぜDMSは生命の兆候ではないのか

研究チームは、特にこの物質の存在を生体の信号とみなすことに強く反対しています。その理由は、水素が豊富であるK2-18bの大気は、窒素と酸素が主成分である地球の大気とは根本的に異なるためです。研究チームは、この惑星の大気モデルを作成し、化学物質が相互にどのように反応するのかを解析しました。その結果、有機体が存在しなくても、K2-18bの大気環境下ではジメチルスルフィドの生成が可能であることが判明したのです。これは、ジメチルスルフィドが検出されたとしても、必ずしも生命体の信号と判断してはならないことを意味します。

胡博士は「宇宙望遠鏡で外惑星についてさらに詳細な情報が得られれば、場合によっては生命体の痕跡を発見できる可能性もあるが、外惑星が地球とどれほど違っているのかも理解しなければならない」と述べ、地球外生命体探索における慎重な姿勢の重要性を強調しました。

この研究には参加しなかったシカゴ大学のジェイコブ・ビーン教授(天文学)は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「(それでも)今回の研究で、K2-18bは引き続き興味深い惑星となり、太陽系外での液体水の環境を研究できる扉を初めて開いた」と述べ、その科学的価値を高く評価しています。

結論

外惑星K2-18bにおけるジメチルスルフィド(DMS)などの「生命の兆候」は、より詳細な観測によってその可能性が低いとされました。この研究は、生命体の痕跡を発見することの難しさと、外惑星のユニークな環境を地球のものとは区別して理解する必要性を示唆しています。

しかし、今回の分析は、K2-18bが大量の水を蓄える「水の惑星」であり、メタンや二酸化炭素も含む独特な大気を持つことを明確にしました。ジメチルスルフィドの謎が解明されたことで、科学者たちはK2-18bを太陽系外における液体水環境を研究するための重要なターゲットとして、今後も探査を進めることでしょう。この発見は、宇宙における生命の可能性を探る上で、新たな段階へと進むための重要な一歩となるでしょう。

参考文献

A water-rich interior in the temperate sub-Neptune K2-18 b revealed by JWST. doi.org/10.48550/arXiv.2507.12622