日本の都市風景は、高層タワーマンション(タワマン)の増加により大きく変貌しました。2024年末時点で全国に1561棟ものタワマンが存在する一方、その足元には古くからの地域社会が息づき、独自の文化や歴史が根付いています。本連載では、こうした「タワマンだけではない街」の姿をリポート。今回は東京都中央区の佃島を訪れ、現代的な景観と昔ながらの下町の魅力を探ります。
筆者が訪れた東京都中央区佃。現代のタワマンと歴史ある街並みが織りなす対比。
タワマンの間に息づく「古き良き」佃の風景
東京都中央区佃地区は、タワマンが林立する街として知られていますが、その谷間を歩くと、「よくぞここまで残ってくれた」と感嘆するほど、古くからの町並みや文化が色濃く残っていることに気づかされます。約31ヘクタールという東京ディズニーランドよりも小さなこの地域には、新旧の風景が凝縮されています。佃は古くからの埋立地であり、その歴史的背景の上に、近代的な街並みと昔ながらの住宅街が混在。これらは渾然一体というよりは、再開発を免れた区画が点在し、独特のコントラストを生み出しています。
佃小橋を渡ると広がる江戸の面影
佃の最も象徴的な風景の一つは、中央区佃1丁目の南半分に広がります。陸地の南端は東京都道473号線、北と東は入堀で隔てられ、佃小橋と住吉小橋が架かっています。西側には隅田川が流れ、この地域の水辺の風景を形成。東京メトロ月島駅からタワマンの谷間を抜け、佃小橋を渡ると、まるで時代を遡ったかのように風景が一変します。江戸時代創業の佃煮専門店や、八角箸で知られる漆器店、昔ながらの酒屋などが軒を連ね、下町情緒を漂わせています。堀の水辺には小ぶりな漁船が静かに係留され、この街が持つ歴史と人情を物語ります。地元の祭りを通して垣間見える旧住民の本音も、この街の奥深さを象徴的です。
東京都中央区佃島は、高層タワーマンションと古き良き下町文化が共存する稀有な地域です。現代的な都市風景の傍らで、江戸時代からの歴史や人情が息づくこの街は、「タワマンだけではない街」の象徴として、その奥深い魅力を訪れる人々に伝え続けています。