奈良公園のシカは国の天然記念物として手厚く保護されています。最新調査で過去最多の生息数を記録しましたが、外国人観光客の増加が背景にある一方、共存における新たな課題も浮上しています。
奈良公園で草を食むシカの群れ
奈良のシカ、生息数が過去最多を記録
一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が2025年7月に行った調査で、奈良公園のシカ生息数が過去最多の1465頭を記録しました。これは前年比140頭増で、1953年に同様の方法で調査を開始して以来最も多い数です(オス315頭、メス816頭、子鹿334頭)。
「奈良公園のシカ」生息数の推移を示すグラフ
増加の背景には子鹿の誕生増があり、愛護会は「これまでの傾向から、エサが豊富な年は出産が多い」と指摘しています。特に、近年増加している外国人観光客による「鹿せんべい」を与える機会が増え、シカが平坦部に集まり妊娠率が向上した可能性を分析しています。シカの主食はノシバなどの植物ですが、米ぬかと小麦粉でつくられた鹿せんべいは「おやつ」として与えられています。愛護会の担当者は、奈良のシカは放し飼いされているのではなく、昔から人間と共生してきた存在であることを強調し、観光客に対して「近づきすぎると人に危害を与えることもあるため、十分注意してほしい」と、人間との適切な距離の重要性を呼びかけています。
交通事故によるシカの死亡も増加傾向に
一方で、シカの死亡数は増加傾向にあり、2024年7月からの1年間で140頭が死亡しました(前年比10頭増)。死因の内訳では、交通事故が36頭(前年比7頭増)で最も多く、次いで病気が30頭などです。約半数は死後日数が経っていることなどから死因不明となっています。
2024年7月~2025年6月の期間におけるシカの死亡原因と頭数を示す円グラフ
奈良公園内でのシカが当事者となった交通事故は、この1年間で72件発生し、前年より8件増加しました。特に、県庁東交差点から近鉄奈良駅前間の国道369号線区間が23件と、最も事故が多発している場所となっています。
奈良のシカの生息数増加は、観光客との良好な関係を示す一方で、交通安全や人とシカの共存における新たな課題を提起しています。これらの課題に対し、適切な対策と理解が求められます。
【資料】
- 一般財団法人 奈良の鹿愛護会