【英国の断層~総選挙2019(中)】取り残される北アイルランド、紛争再燃に拭えぬ不安





ベルファストのシン・フェイン党の事務所前で元IRA民兵の男性と話す元英国兵士のリー・ラビスさん(右)=板東和正撮影

 1970年代、英国からの分離をめぐる紛争の舞台となった英領北アイルランドの中心都市ベルファスト。レンガ造りの古い建物が並ぶ一角では12日の総選挙を控え、「ノー・ハードボーダー」(厳格な国境管理はいらない)と記した選挙ポスターが至る所で目についた。

 ジョンソン首相が欧州連合(EU)と合意した離脱協定案に反対する地元政党が掲げた。陸続きのアイルランドとの国境で、税関や検問所を置かず、自由に往来できる現状が失われかねないとの警鐘だ。

 「多くの市民も不安を感じている」。こう語るのはベルファストに住むリー・ラビスさん(48)。国境管理が導入されれば「歴史が繰り返される」と表情を曇らせた。かつて英軍兵として紛争に従事した過酷な経験がよみがえる。

 紛争では英国からの分離とアイルランドへの帰属を求めるカトリック系住民、英国統治を望むプロテスタント系住民が対立。カトリック系のアイルランド共和軍(IRA)など双方の武装組織がテロを繰り広げ、98年の和平合意までに約3500人が犠牲になった。

 イングランド生まれのラビスさんは北アイルランドに派遣されたが、凄惨な戦闘に心を病んで退役。無気力感にさいなまれ、ドラッグにも溺れた。「紛争の怖さは体が知っている」。ベルファストで現在、カトリック、プロテスタント両派の相互理解を促す活動に精を出すのは、争いを繰り返させたくないためだ。相互理解のため、IRAの政治組織だったシン・フェイン党支持者とも対話する。

 離脱問題の最大の難問はアイルランドとの国境で、和平により実現した自由往来を維持する方策だった。ジョンソン氏は本土と北アイルランド間で税関検査を行うなど、事実上の国境線を海に引くことで解決を目指すが、検討中の検査法では技術的に密輸を完全に防ぐのは難しいといわれる。

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