リチウム価格が歴史的な暴落、生産企業の多くが採算割れに

世界的な供給増加と需要の伸び悩みを受け、EV用電池の主要原料であるリチウムの相場下落が続いています。この価格暴落により、多くの生産企業が採算割れに追い込まれる深刻な状況が生じており、市場の先行きには不透明感が漂っています。

リチウム価格暴落の現状と背景

非鉄金属情報サイトの上海有色網によると、電池向け炭酸リチウムの2025年6月18日時点の取引価格は、1トン当たり平均6万500元(約122万円)となり、これは1年前から37.6%の大幅な下落です。同日の最低取引価格は6万元(約121万円)の大台を割り込む事態となりました。2025年の年初と比較しても、既に価格は2割近く低下しています。この背景には、世界的な供給能力の拡大に対してEV市場の成長ペースが一時的に鈍化したことによる需要の伸び悩みが挙げられます。市場調査会社の一部では、この供給過剰の状態が2030年まで続くと予測しています。

リチウム精製コストと収益性

リチウムは、すべての金属元素の中で最も軽い元素であり、その優れた化学的性質からEV用車載電池の正極材料として広く利用されています。主に炭酸リチウムや水酸化リチウムといった化合物として使用されます。自然界では、リチウムは塩湖かん水や火成岩に含まれる鉱石として存在します。精製コストは、塩湖のかん水から抽出する方法が最も低く抑えられ、炭酸リチウム換算で1トン当たり5万元(約101万円)未満とされています。

一方、鉱石を原料とする場合はコストが高くなります。代表的なリチウム鉱石であるリチア輝石からの精製コストは1トン当たり8万元(約161万円)弱、リチア雲母からは同約11万元(約222万円)とされるなど、鉱山によっては20万元(約404万円)を超えるケースも存在します。炭酸リチウムの取引価格は、2022年11月につけたピーク時の1トン当たり60万元(約1211万円)から下落の一途をたどり、2024年6月には同10万元(約202万円)の節目を下回り、多くのリチウム生産企業が赤字に転落しました。

オーストラリアにあるリチウム鉱山。鉱石からのリチウム精製はコスト高で、現在の価格では採算割れしやすい。オーストラリアにあるリチウム鉱山。鉱石からのリチウム精製はコスト高で、現在の価格では採算割れしやすい。

現在の1トン当たり6万元という水準では、リチア輝石やリチア雲母といった鉱石からの精製では、コストに見合わずほとんど採算が合いません。利益を確保できるのは、リチウム含有量が非常に高いごく一部の塩湖開発プロジェクトに限られているのが実情です。

リチウム市場特有の価格変動

鉄やアルミなどの一般金属と比較して、リチウムは市場規模が小さく、用途もEV電池など限られているという特徴があります。このため、需給バランスのわずかな変化でも相場が大きく乱高下しやすい性質を持っています。炭酸リチウムの取引価格は、2021年の年初時点では1トン当たり5万元前後でしたが、それがEV需要の急拡大と共にわずか2年弱で約12倍の60万元まで急騰しました。そして、そこから約2年半余りで現在の6万元水準へと10分の1にまで暴落するという、極めて劇的な価格変動を経験しています。この不安定さが、生産計画や投資判断を難しくしています。

現在のような歴史的な低価格は、特に鉱石由来の生産者にとって厳しい経営環境をもたらしており、リチウム市場の今後の動向が引き続き注目されます。

出典: Yahoo!ニュース / 東洋経済オンライン