韓国光州市のチキン専門店で発生した客による暴行事件が、韓国内で「正当防衛」の解釈を巡る深刻な議論を巻き起こしています。暴行を受けたアルバイト店員が反撃したにもかかわらず、警察が「双方暴行」として捜査を進めていることに、当事者だけでなく世論からも強い怒りと困惑の声が上がっています。この事件は、韓国における自己防衛の権利と法的な線引きについて、改めて社会全体に問いを投げかけています。
事件の経緯:理不尽な暴行とアルバイトの応戦
この事件は7月20日に発生しました。光州市のチキン店で勤務を終え、店内で食事をしていたアルバイト店員に対し、会計を済ませて立ち去ろうとした客の男が突然振り返り、店員の頬を平手打ちするという理不尽な暴行に及びました。予期せぬ攻撃に驚いた店員は、すぐに立ち上がって男の腕を掴み、拳で応戦しました。現場に居合わせた店主と他のスタッフが間に入り、騒動はその場で収拾されました。
店員は額が腫れ、唇が切れるなどの軽傷を負いましたが、後に加害者と示談が成立しました。しかし、警察がこの件を「双方暴行」として捜査していると知らされ、店員は「納得がいかない」と強く憤りを表明しています。7月31日に放送されたJTBCのニュース番組「事件班長」では、アルバイト店員自身が容疑者扱いされることへの怒りと困惑を訴える様子が報じられました。
JTBCのニュース番組「事件班長」で報道された、韓国光州のチキン店暴行事件に関する画面。
「双方暴行」認定への疑問と国民の声
報道に接した韓国のネットユーザーたちは、警察の判断に対し一斉に批判の声を上げています。「いきなり殴られて黙っていろというのか」「あれは正当防衛の範囲だろう」「反撃が暴行扱いされるなら、殴られてもじっとしていろと言っているのと同じだ」といった意見が多数寄せられ、被害者が自己防衛のために行った行動がなぜ加害者と同等に扱われるのか、という強い疑問と不満が噴出しています。この世論の反応は、韓国社会における「正当防衛」の概念と、それが法執行機関によってどのように解釈されるべきかという根本的な問題提起となっています。
韓国社会を揺るがす「正当防衛」の解釈問題
韓国では近年、暴力事件における「正当防衛」の認定範囲について、たびたび社会的な議論が巻き起こっています。今回のチキン店での事件のように、一方的な暴行を受けた者が自己を守るために反撃した際、それが「過剰防衛」や「双方暴行」と見なされるケースに対する批判が高まっているのです。市民の間では、正当防衛の法的基準が現実の感覚と乖離しており、被害者が自らを守る権利が十分に保障されていないのではないかという懸念が広がっています。今回のケースを契機に、法的な見直しを求める世論がさらに高まることは必至であり、韓国の司法制度における正当防衛の定義とその運用に対する抜本的な議論が求められています。
結論
光州チキン店でのアルバイト暴行事件は、単なる一つの刑事事件に留まらず、韓国社会における「正当防衛」の解釈と市民の自衛権に対する深い問題を浮き彫りにしました。警察による「双方暴行」の認定は、被害者の立場を曖昧にし、社会の常識との乖離を生む結果となっています。この事件を機に、韓国の法制度が時代の要請に応え、自己防衛の権利がより明確かつ実情に即して保障されるよう、具体的な法改正や運用基準の見直しが進むかどうかが注目されます。
参考文献:
- KOREA WAVE/AFPBB News (2025年8月10日). 韓国チキン店「アルバイト反撃」なぜ「双方暴行」に?世論が怒り. https://news.yahoo.co.jp/articles/4b498dcae66f34928d6a4964ec4fd4c1125dd41f