近年、日本国内の不動産市場において、外国人投資家による購入が急速に増加し、「爆買い」とも呼ばれる現象が注目を集めています。国土交通省が発表した令和7年度版「土地白書」によると、昨年1年間の海外投資家による不動産購入額は9397億円に達し、前年比で約63%もの大幅な増加を示しました。特に、非居住者の外国人が高額物件を取得するケースが増え、これが不動産価格を押し上げる主要な要因の一つとなっています。この現状に対し、外国人による不動産購入規制を求める声も上がる中、既存の居住者への影響や、今後の市場動向について、大手不動産デベロッパー出身でオラガ総研代表の牧野知弘氏が分析します。
なぜ日本の不動産は海外投資家を惹きつけるのか?
日本の不動産が海外投資家から強い関心を集める主な理由は、大きく分けて三つあります。第一に、極端な円安の進行です。2020年前後にコロナ禍への対応として日本が行った大規模な金融緩和は、諸外国がコロナ終息後に金融引き締めへと転じる中でも継続されました。この低金利状態が続くことで、海外投資家にとって日本の不動産は相対的に非常に割安感のある投資対象となりました。
第二に、日本の不動産売買における規制の緩さです。日本では外国人であっても基本的に土地の購入に制限がなく、まさに「フリーマーケット状態」と言えます。山林や田畑、さらには水源地や島に至るまで、広範な土地が売買の対象となるため、外資が容易に手を出しやすい環境が整っています。特に、管理が煩雑であることを理由に所有者が手放す山林が増えていることも、この傾向を後押ししています。
第三に、日本の不動産は私権が極めて強く、国や地方自治体がその所有権に介入することが困難である点です。これにより、外国人が購入した不動産の所有権も手厚く保護されるため、海外投資家にとって非常に安心感のある投資先となっています。特にアジア諸国の中で、日本はこの私権保護の傾向が顕著であり、それが海外投資家たちの関心を一層高める要因となっています。
湾岸エリアの高層マンション群と上昇する不動産価格のイメージ
各国の厳格な不動産規制と日本の現状
世界各国では、外国人による不動産購入に対して様々な規制が設けられています。例えば、カナダでは住宅用不動産の購入が原則禁止されており、オーストラリアやニュージーランドでも中古住宅の購入が禁じられています。中国においては、そもそも個人や企業が不動産を所有することはできず、シンガポールでは不動産取引時の税金を高く設定することで、実質的な障壁を設けています。
これに対し、日本では2021年に成立した重要土地等調査規制法によって、自衛隊基地や原子力発電所の近辺における土地の外国籍所有がようやく規制されたに過ぎません。しかし、それ以外の広大な土地に関しては、外国人による購入に対する規制がほとんどないのが現状です。日本の不動産における外国人への規制が国際的に見て極めて緩いことは明らかであり、この状況は安全保障上の懸念だけでなく、不動産価格の高騰という負の側面も併せ持っていることを忘れてはなりません。
不動産「爆買い」がもたらす影響と課題
外国人による不動産「爆買い」の加速は、日本の不動産市場に多岐にわたる影響を及ぼしています。最も顕著なのは、都市部や観光地における不動産価格の急激な高騰です。これにより、日本人居住者、特に若い世代や低所得者層が住宅を購入することがますます困難になっています。また、価格高騰は賃貸市場にも波及し、生活コストの上昇に繋がりかねません。
さらに、安全保障上の問題も無視できない課題です。軍事施設や重要インフラ周辺の土地が外国資本に買収されることは、国の安全保障に関わるリスクを増大させます。現在の重要土地等調査規制法では対象範囲が限定的であり、より広範な視点での対応が求められています。
まとめ
外国人投資家による日本の不動産購入の急増は、円安、緩い規制、そして私権の強力な保護という三つの要因に強く後押しされています。これは、国際的な視点から見ると特異な「フリーマーケット状態」であり、諸外国が厳格な規制を設けているのと対照的です。この「爆買い」は、不動産価格の高騰を通じて日本人居住者の住宅取得を困難にする経済的影響だけでなく、安全保障上の新たな課題も提起しています。今後、国内外の情勢変化を注視しつつ、日本政府は国民生活と国の安全保障のバランスを考慮した、より実効性のある政策対応を検討する必要があるでしょう。
参考資料
- 国土交通省 令和7年度版「土地白書」
- 牧野知弘氏 オラガ総研代表による分析(元の記事情報に基づく)
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/08cd0d932483e4a239a0c0986717cce2fd7d7efe