新NISA制度の開始以来、多くの日本人投資家が米国株を中心としたインデックスファンドに強い関心を寄せ、その人気は高まる一方です。しかし、2002年からインデックス投資を実践する著名な投資ブロガー、水瀬ケンイチ氏は、「アメリカがいつまで覇権国でいられるかは誰にも分からないからこそ、全世界に分散投資するほうが賢明だ」と警鐘を鳴らしています。本稿では、米国株投資の魅力と、それだけにとどまらない分散投資の重要性について、歴史的視点も交えながら解説します。
米国株の驚異的成長の裏にある「将来の不確実性」
近年、米国株式市場は驚異的なリターンを記録し、多くの投資家を惹きつけています。例えば、2010年から2023年までの約13年間で、S&P500は年平均約12.8%という高いリターンを達成しました。同じ期間の日経平均株価の年平均リターンが約8.5%、MSCIエマージング市場指数が約3.5%であったことを考えると、そのパフォーマンスの差は歴然です。さらに、個別銘柄ではAppleが約1800%、Amazonが約1000%、マイクロソフト社が約900%と目覚ましい成長を遂げ、これらの数字を見れば「米国株だけで十分」と考える気持ちも理解できます。
しかし、投資の基本原則として、過去のパフォーマンスが将来の結果を保証するものではないという点を忘れてはなりません。株式市場がプラスの期待リターンを生み出す仕組みは、米国だけでなく、世界中の資本主義経済において機能しています。ここで重要な問いは、「将来にわたって最も良いリターンを生み出す市場が、必ずしも現在最も強い市場とは限らないのではないか?」という点です。経済の変動や地政学的なリスクは常に存在し、一つの国や地域に投資を集中させることには、見えないリスクが潜んでいます。
新NISAで投資を検討する様子を示すイメージ画像。チャートとパソコン画面を前に考える投資家の手元。
歴史が語る「経済覇権国の移ろい」と投資戦略
経済の歴史を振り返ると、世界の経済覇権国が常に移り変わってきたことが明確に示されています。17世紀にはオランダが世界経済の中心であり、その代表格であるオランダ東インド会社は、当時の時価総額が現代の約7.9兆ドル(約1200兆円)相当とも言われ、今日の巨大企業をも遥かに凌ぐ規模でした。
その後、18世紀から19世紀にかけてはイギリスが産業革命を牽引し、世界の中心へと躍り出ました。1900年頃には、ロンドン株式市場が世界の時価総額の約25%を占めるまでになりました。そして20世紀以降、アメリカが世界経済の主導権を握り、現在に至っています。
もし1700年代にオランダの投資家が「オランダ株だけに投資すれば良い」と考えていたとしたら、その後のイギリス産業革命がもたらす成長の機会を逃していたことでしょう。同様に、1900年頃のイギリスの投資家が「イギリス株だけが最良」と固く信じていたら、20世紀にアメリカが経験した驚異的な成長に乗り遅れていた可能性が高いのです。これらの歴史的事実は、単一の国や市場に投資を集中させることの潜在的なリスクと、経済の重心が移動しうるという普遍的な教訓を示しています。
まとめ
新NISAの恩恵を受け、米国株投資への関心が高まるのは自然な流れですが、投資においては過去のパフォーマンスに過度に依存せず、将来の不確実性を見据えることが重要です。歴史が示す経済覇権国の変遷は、いかに優れた市場であっても、その優位性が永続する保証はないことを教えてくれます。
したがって、特定の国や地域に偏らず、全世界に分散投資を行うことは、将来の経済情勢の変化に柔軟に対応し、リスクを軽減しながら長期的な資産形成を目指す上で、より賢明な戦略と言えるでしょう。投資ポートフォリオを構築する際には、この歴史的視点と分散の原則を考慮に入れることが肝要です。
参考文献