バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』(以下『スラムダンク』)のアニメ版オープニングに登場し、「聖地」として世界中のファンが訪れる神奈川県鎌倉市の江ノ電「鎌倉高校前」駅。この世界的に有名な観光地が、現在、深刻なトイレ問題に直面しています。外国人観光客の急増に伴い、一部の訪問者による迷惑行為、特に野外排泄が地域住民の生活環境を脅かし、事態は「もう限界だ」と悲鳴が上がるほど悪化しています。駅のトイレが閉鎖されたことで、問題はさらに深刻化しており、聖地巡礼の裏で進行するこの実態が注目されています。
国境を越え愛される『スラムダンク』と「聖地巡礼」の背景
『スラムダンク』は1990年代に「週刊少年ジャンプ」で連載を開始し、国内のバスケットボールブームに火をつけた伝説的な漫画です。その人気は時代を超え、2022年12月公開の映画『THE FIRST SLAM DUNK』によって海を越え、特にアジア圏で絶大な支持を獲得しました。例えば、中国では観客動員数が1817万8000人に上り、興行収入は6億5900万元(約131億8000万円、2023年8月CRIline報道)を超える記録的な大ヒットとなりました。
聖地とされているのは、江ノ電・鎌倉高校前駅のすぐそばにある踏切です。アニメのオープニングで主人公・桜木花道がカバンを肩にかけ、江ノ電が通り過ぎるのを背景に佇むシーンはあまりにも有名で、多くのファンが一度は同じ構図で写真を撮りたいと願う場所です。この「聖地巡礼」は2013年頃から本格化していましたが、映画の記録的ヒットを機に、観光客は爆発的に増加しました。
観光客殺到と地域インフラの限界
しかし、江ノ電鎌倉高校前駅は元々、これほどまでの観光客の殺到を想定して設計された場所ではありません。あくまで地元の高校生や住民が日常的に利用する小さな無人駅であり、観光客を受け入れるための十分なトイレ施設や周辺の休憩スペースといったインフラは整備されてきませんでした。この地域インフラの脆弱性が、現在の混乱に拍車をかける大きな要因となっています。
迷惑行為により閉鎖された江ノ電鎌倉高校前駅のトイレ。ベニヤ板で塞がれ、野外排泄問題の一因となっている状況を示す
深刻化する野外排泄問題と住民の切実な訴え
聖地としての人気の陰で、一部の外国人観光客によるマナー違反が深刻化しています。中でも最も大きな問題の一つが野外排泄です。彼らは場所を問わず、たとえ他人の敷地内であろうと、小用にとどまらず大便までもしてしまうという報告が相次いでいます。こうした事態を受け、ついに駅のトイレが閉鎖されたことで、野外排泄問題はさらに悪化の一途を辿っています。地域住民は「もう限界だ」と悲鳴を上げており、生活環境の悪化に苦しんでいます。
『スラムダンク』聖地が直面するこの問題は、人気コンテンツによる観光誘致と地域社会の調和という、現代社会が抱える普遍的な課題を示唆しています。国際的な観光客が増加する中で、地域インフラの整備と訪問者へのマナー啓発は喫緊の課題であり、持続可能な聖地巡礼のあり方が模索されています。
参考文献
- CRIline 2023年8月28日配信記事
- Friday digital 2023年8月13日配信記事「聖地は“キャパオーバー”『スラムダンク』聖地に殺到する外国人観光客がもたらす「深刻なトイレ問題」」(https://news.yahoo.co.jp/articles/2226dfc8ca3b5af624997ffd68cbd14c09cfca8f)