南京事件を題材とした中国映画「南京写真館」が、この夏の中国映画市場で好調を維持し、大きな社会現象を巻き起こしている。7月25日の公開以来、8月13日時点で興行収入は23億元(約470億円)に達し、夏季に上映された歴史映画の記録を更新した。この映画は、その興行的な成功だけでなく、中国国内の世論や対日感情に与える影響についても注目されている。
映画の概要と描写の特異性
「南京写真館」は、1937年12月に旧日本軍が南京市を占領し、多数の中国人を殺害したとされる南京事件を背景に描かれている。物語は、南京市内の写真館を舞台に、虐殺の証拠となるネガフィルムを守ろうとする中国人の命懸けの奮闘を描く。
この映画の一つの特徴は、「善良な日本人」が一切登場しない点にある。当初は友好的な態度を見せる日本軍人も、本心は全く異なることが描かれ、主人公の中国人男性が終盤で「私たちは友達じゃない」と叫ぶ場面は、映画全体のトーンを象徴している。日本軍による暴力や殺害の描写は、これまで知られていた内容が大半を占めるものの、その描かれ方が中国人のナショナリズムを強く刺激する形となっている。
中国国内の反応と在留邦人への影響
中国の映画館で鑑賞した複数の観客は、日本のメディアの取材を拒否する傾向が見られた。しかし、映画チケット購入アプリには、「非常に良い愛国主義教育の映画だ」「全ての中国人が見るべき」といった好意的なコメントが多数寄せられており、映画が愛国心を高めるツールとして機能していることが伺える。
一方で、交流サイト(SNS)では、映画を見た少年が「日本人を恨む」と発言する動画など、現在の日本に対する怒りや憎悪を示す投稿も少なくない。このような世論の動向は、在留邦人にも影響を与え始めている。実際に、江蘇省蘇州市では7月31日、子供連れの日本人女性が背後から石のようなもので殴られ負傷する事件が発生しており、映画が引き起こす反日感情の高まりが懸念されている。
中国で公開された映画「南京写真館」のポスター
日中関係への懸念と日本側の対応
日中関係筋は、映画が中国国内の世論や情緒に与える影響について「ネットの反応をみても厳しいものがある」と指摘している。この映画が、日中関係のさらなる悪化につながる可能性も指摘されており、日本側は在留邦人の安全確保と、中国側との意思疎通の強化に努める必要があるとしている。「在留邦人への注意喚起が後追いにならないようにしたい」との声も上がっており、今後の展開が注視される。
まとめ
中国映画「南京写真館」の記録的な興行収入は、単なるヒット作に留まらず、南京事件の歴史認識、中国国内の愛国主義、そして日本に対する複雑な感情を改めて浮き彫りにした。この映画が中国の世論形成に与える影響は大きく、在留邦人の安全や日中関係の安定にとって、喫緊の課題として認識されている。国際社会における歴史認識の問題と、それが現代の外交関係に与える影響について、改めて深く考える必要があるだろう。
参考文献
- 毎日新聞 (2025年8月14日). 南京事件題材の中国映画、興行収入470億円超 影響懸念も. Retrieved from https://news.yahoo.co.jp/articles/986b6df72d5d1c62da57c63640b548c3fbc02565