今日の自動車産業において、カーオーディオのチューニングは長年盛んに行われてきました。自動車メーカー各社も、名だたるスピーカーメーカーと手を組み、車内空間における音響システムには絶えずこだわりを見せています。特に近年、新車のスピーカー搭載数が増加の一途を辿っていることには目を見張るものがあります。もはやスピーカーは「何を」搭載するかではなく、「どれだけ」搭載するかが重要視される時代になったのでしょうか。果たして、スピーカーが多い車の音響は本当に優れているのか、その疑問に迫ります。
カーオーディオの進化:スピーカー「数」が競われる時代へ
今から約40年前、自動車に搭載されるスピーカーはフロントに2つのみが一般的でした。リアスピーカーは当時としては豪華装備とされていましたが、21世紀を迎える頃にはこの状況が大きく変化します。現在では、軽自動車やコンパクトカーでさえ4つのスピーカーが標準装備となり、さらに高性能な車種では、高音域を専門に担当するツイーターや、重低音を響かせるサブウーファーが純正オーディオに組み込まれるようになりました。
この時代には、BOSEやJBLといった有名スピーカーメーカーのサウンドシステムが搭載されていることが、その車の音響品質を示す重要な指標であり、オーナーの誇りでもありました。しかし、その後の10年、20年という歳月を経て、どのメーカーのスピーカーであるかを誇るよりも、いくつスピーカーが搭載されているかを誇る時代へと移行していきます。その結果、純正オーディオシステムでさえ10個、12個ものスピーカーを搭載する車が当たり前のように登場するようになりました。何が正解なのか定義が難しいカーオーディオの世界において、筆者のような「車には6つもスピーカーがあれば十分」と考える人間は、時代の流れに乗り遅れているのかもしれません。
トヨタ車のサウンドシステム徹底解析!スピーカー数と音質の真実
自動車メーカー各社が音響に対して異なるこだわりを持つ中、今回はトヨタ車の事例に焦点を当てて、その進化と特徴を探ります。トヨタ車の中で「音」に特化したモデルとして、40代以上の世代がまず思い浮かべるのは、2代目bBではないでしょうか。特に、音と光を組み合わせて車内でくつろぎの空間を演出する「Z‘‘Q version’’」というグレードが存在しました。
このグレードには合計9つのスピーカーが搭載されていました。ツイーターはフロントピラーとインパネにそれぞれ2つずつ、フロントドアとリアダクトにもスピーカーが2つずつ配置され、さらにインパネ下にはパワードサブウーファーが1つという構成です。これに加え、「パワービート」「リアブースト」「BGM」「ナチュラル」という4つのオーディオモードが用意され、まるでジュークボックスのような体験を提供しました。コンパクトカーであるbBに9つものスピーカーというだけでも十分な数に感じられますが、近年のミニバンはbBを大きく凌駕するスピーカー数を誇ります。
高級ミニバン、トヨタ アルファードの車内に多数配置された高品質スピーカーと洗練されたインテリア。現代のカーオーディオシステムにおけるスピーカー数の増加傾向を示す一例。
例えば、ミドルサイズミニバンであるトヨタ ノアの場合、メーカーオプションのディスプレイオーディオPlusを選択すると、なんと12個ものスピーカーが搭載されます。さらに、純正の13.2型有機EL後席ディスプレイ自体にも背面アクチュエーターが内蔵されているため、ミニバンの定番装備であるフリップダウンモニターを追加すると、スピーカーの総数は13個に達します。これは、より没入感のある音響体験を後席の乗員にも提供しようという意図が伺えます。
まとめ
現代の自動車におけるスピーカー数の増加は、単なるトレンドではなく、車内でのエンターテインメント体験の質を高めようとするメーカーの努力の表れです。かつては少数であったスピーカーが、今では10個を超えることも珍しくなくなり、ツイーターやサブウーファー、さらには後席ディスプレイに内蔵されたアクチュエーターに至るまで、多様な音響デバイスが搭載されています。トヨタのbBやノアの事例が示すように、それぞれの車種の特性やターゲットユーザーに合わせて、最適な音響空間が追求されています。スピーカーの「数」が直接的に「最高音質」を意味するわけではありませんが、より複雑で豊かな音場を構築するための手段として、その重要性は増していると言えるでしょう。
参考資料
- トヨタ自動車 公式ウェブサイト
- ベストカーWeb 編集部
- Yahoo!ニュース (https://news.yahoo.co.jp/articles/4912e338850346d12b6decb7525cd5960e1e1d36)