今年7月、東京・足立区の商業施設で発生した面識のない女性へのスプレー襲撃事件は、その身勝手極まる動機と計画性で社会に衝撃を与えています。埼玉県草加市在住の職業不詳、根岸秀男容疑者(61)は、30代の女性の顔面に突然スプレーを噴射し、執拗に追いかけ回すという卑劣な犯行に及んだとして逮捕されました。この事件は、近年増加傾向にある「生活苦から刑務所を志願する」動機の犯罪と共通する背景を持つことが明らかになり、社会に深刻な警鐘を鳴らしています。
計画された犯行と驚愕の供述
この通り魔的犯行は、商業施設内の防犯カメラに詳細に記録されていました。根岸容疑者は、パブリックスペースの椅子に座り、イヤホンをして携帯電話を見ている女性に狙いを定め、予期せぬタイミングで顔面にスプレーを噴射。被害女性が驚いて逃げ惑うにもかかわらず、容疑者は執拗に追いかけ、再度スプレーを吹き付ける様子が鮮明に映っていました。
逮捕後の警察の取り調べに対し、根岸容疑者は衝撃的な供述をしています。「借金や病気などがあり、死んでもいいと思っていた。刑務所に入れば食べていけると思い、今年の2月から事件を起こそうとスプレーとナイフを持ち歩いていた」と語り、さらに「浅草や秋葉原などを歩き、自分よりも弱そうな人がいないか探していた」と、無差別殺傷を企図していた可能性を示唆しました。
供述からは、犯行が周到に計画されていたことも判明しています。容疑者は「スプレーで目つぶしをして動けなくなったところを刃物で刺すつもりだった」と具体的な殺意を伴う計画を明かし、その動機については「借金があり、刑務所に入れば生活に困らないと思った」と繰り返し述べています。
「刑務所志願型」犯罪の増加と過去の事例
根岸容疑者のような「生活が苦しくて刑務所に入りたかった」という身勝手な動機による通り魔的な犯罪は、近年、その増加が懸念されています。これは、社会保障制度や福祉の網の目からこぼれ落ちた人々が、極限状況で犯罪を「生活の手段」として選んでしまうという、看過できない社会問題の表れでもあります。
類似の動機を持つ凶悪事件としては、2021年10月に発生した京王線車内殺人未遂事件が挙げられます。「ジョーカー」のコスプレをした男が乗客を刃物で切り付け、車両に放火したこの事件では、犯行動機について「死刑になりたかった」と供述し、懲役23年の実刑判決を受けました。
また、2022年1月に発生した東京大学前刺傷事件では、17歳の男子高校生が受験生や通行人を刃物で襲い、3名を負傷させました。少年は「人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えるようになった」と供述しており、少年ながら「通り魔的に3人もの生命を脅かす重大な事案で犯情は相当に重い」として、名古屋地方家庭裁判所は逆送致を決定。東京地方裁判所は懲役6年以上10年以下の不定期刑を言い渡しています。これらの事件は、動機こそ異なるものの、自己中心的な理由から無関係な人々を巻き込む無差別的な犯行という点で共通しています。
スプレー襲撃事件で逮捕され、送検される根岸秀男容疑者の様子
反省なき態度と社会への警鐘
8月7日、送検のため警視庁千住署から署員に付き添われて出てきた根岸容疑者は、報道陣をちらりと見た後、フラッシュの眩しさに瞼を閉じたものの、わざわざ遠回りしてゆっくりと歩き、報道陣に撮影の時間を与えるかのような態度で護送車に乗り込みました。その様子からは、犯行への反省や後悔の念は全くうかがえませんでした。(FRIDAYデジタルより)
今回の足立区スプレー襲撃事件は、「刑務所に入りたい」という動機がいかに身勝手で危険な犯罪を生み出すかを示しています。このような動機を持つ犯罪が増加することは、社会全体の安全に対する脅威であり、単なる個人の問題として片付けられるものではありません。社会が抱える貧困や孤立といった問題と向き合い、根本的な解決策を模索することが、今後同様の事件を防ぐための喫緊の課題と言えるでしょう。