野津英滉被告のボーガン家族殺害、動機に潜む「家族への憎悪」と複雑な家庭環境

2020年に兵庫県宝塚市で発生したボーガン(クロスボウ)による家族殺害事件において、家族3人を殺害し親族1人に重傷を負わせた殺人罪などで起訴された野津英滉被告(28)に対し、神戸地裁は10月31日、無期懲役の判決を言い渡しました。求刑は死刑でした。本稿では、この凄惨な事件の背景にある被告の家庭環境と、犯行へと駆り立てた「家族への憎悪」、そして複雑な心理的動機に深く迫ります。

宝塚ボーガン事件、無期懲役判決の背景

事件は、野津被告が自宅でボーガンを撃ち、肉親を殺傷するという衝撃的な内容でした。伯母が辛くも自宅を脱出し、近隣住民に助けを求めたことで、警察官が臨場し被告は逮捕されました。裁判員裁判で野津被告が語った陳述書や被告人質問からは、家族に対する根深い憎悪が明らかになりました。被告は、「母、祖母、弟からのストレスや苦しみを説明する時、3人の人間性が大きく関わってきます」と述べ、犯行の根源に家庭内の軋轢があったことを示唆しています。

兵庫県宝塚市で家族3人を殺害した野津英滉被告が犯行に使用したボーガン。兵庫県宝塚市で家族3人を殺害した野津英滉被告が犯行に使用したボーガン。

「十分な愛情を受けず」と供述された幼少期

弁護側の冒頭陳述によると、野津被告は両親の離婚後、母親と弟との3人暮らしの中で育ちました。幼少期から「自閉スペクトラム症」を抱えていたとされる被告は、厳しい家庭環境にあったとされています。母親は「境界知能」で精神科に通院しており、弟には「注意欠陥多動性障害」があったことから、母親の関心は主に弟に向けられ、被告は十分な愛情を受けずに育ったと感じていたと供述しています。この愛情不足が、後の家族への不満やストレスの蓄積に繋がったと見られています。

募る「家族への憎悪」と自死願望

中学生の頃には強迫性障害を発症した野津被告は、中学3年生で祖母の家に身を寄せ、精神的に安定した生活を送り大学に進学しました。しかし、弟による暴力が原因で母親がシェルターに避難すると、祖母宅に弟も引っ越してきて同居を開始。その後、母親も祖母宅の近くに単身居住するようになります。再び家族間の軋轢が深まり、「母親は被告を気にかけず、死にたいという気持ちが大きくなった」と被告は語っています。

被告は単なる自死ではなく、「原因は母親にある。野津家の一員を終わらせて精算したい」という強い思いを抱くようになります。「事件を起こした後、出頭し死刑になって自分の人生も終わらせたい。それがもっとも正しい選択」と考え、伯母を含む4名の殺害計画を立て、実行に移したとされます。これは、自己の存在と家族のつながりを絶ち切りたいという、悲痛なまでの願望の表れでした。

結び

野津英滉被告のボーガン事件は、単なる凶悪事件としてではなく、複雑な家庭環境、精神的な疾患、そして家族間での愛情の欠如と憎悪が絡み合った結果として理解されるべきです。今回の無期懲役判決は一つの区切りですが、被告が抱えていた深い苦悩や社会的な支援のあり方について、改めて深く考察する機会を提供するものです。

参考文献