日本の学力低下、文科省調査で顕著に:探究学習と基礎学力の溝

文部科学省が2024年の「経年変化分析調査」の結果を発表し、日本社会に大きな波紋を広げている。この調査により、小学6年生と中学3年生の学力が前回の2021年度調査と比較して著しく低下している実態が明らかになった。当時の阿部俊子文部科学省大臣は、「社会経済的背景の低い層のほうがスコアの低下が大きいことを重く受け止めている」とコメントし、教育現場における格差問題への懸念を表明した。この学力低下は、単なる数値の変化に留まらず、日本の子どもたちの未来、ひいては社会全体の活力に影響を及ぼしかねない喫緊の課題として、関係者の間で深い議論を呼んでいる。

日本の小学校で学ぶ児童。文部科学省の経年変化分析調査で学力低下が指摘され、教育現場に課題が浮上している。日本の小学校で学ぶ児童。文部科学省の経年変化分析調査で学力低下が指摘され、教育現場に課題が浮上している。

塾現場が語る「想定内」の学力変化

一記者の私からすれば、今回の学力低下の調査結果は「想定内」の出来事であった。なぜなら、日頃から取材に赴く複数の学習塾の現場で、「近年、新しく入塾してくる中学1年生の基礎学力が著しく低下している」という共通の嘆きを耳にし続けていたからだ。

基礎計算能力と語彙力の低下

塾関係者からは具体的な問題点が指摘されている。「分数の足し算ができないのは当たり前で、もっと単純な四則計算すらおぼつかない子が増えている」という声は少なくない。さらに、「語彙力も不足しており、基本的な文章理解にも時間がかかるため、そこから補習する必要がある」といった意見も聞かれる。こうした状況を受け、多くの塾では、これまでは中学受験対策が中心だった小学生コースのカリキュラムを見直し、基礎学力の定着に重点を置くことで、小学生のうちから学力を底上げする必要性を強く感じているという。

探究学習・グループワークが引き起こす基礎学力の課題

では、なぜこのような学力低下が起きているのだろうか。塾の現場からは、その原因として2020年度に施行された新学習指導要領の影響を指摘する声が上がっている。新指導要領では、小学校において「探究学習」や「グループワーク」といった能動的な学習活動が重視され、授業に組み込まれる機会が増加した。その結果、基礎的な知識を系統的に教えたり、それを反復練習する時間が減少しており、「読み書き計算」といった基礎学力すら十分に身につかない児童が増えているという分析だ。

「時間の計算」に見る基礎指導の欠如

具体的な例として、こんな保護者の話がある。東京都23区内在住のある保護者は、「算数が得意なはずの子どもが、『時間の計算の問題が解けない』と泣き出した」と語る。問題を見ると、「13時36分の30分後は何時何分?」といった、ごく基礎的な内容であった。保護者が5分ほど教えるとすぐに理解して解けるようになったという。なぜこのようなことが起きたのか。その保護者によると、小学校の授業は探究型グループ学習で、「時間ってなあに?みんなで考えてみよう。考えたらそれを模造紙にまとめて書こう」という形式が取られ、時間の計算の具体的な仕方を一切教えていなかったのだという。

難関塾の現場から見た基礎学力定着の重要性

この「13時36分の30分後は何時何分?」といった時間の計算の問題は、算数が得意な子どもであれば親が少し教えれば理解できるかもしれないが、すべての子どもがそうとは限らない。ある中学受験塾の小学3年生のクラスを見学した際のことだ。難関校対策に力を入れる塾の、その中でも上位クラスにいる生徒たちであるから、世間一般の小学生の中では相当学力が高い層に属する。彼らは小学校の授業を先取りする形で時間の計算を学んでいたが、すぐにマスターする生徒は少数で、大半は苦戦していた。そして、苦戦した生徒たちは帰宅後に宿題を通して、習った内容をしっかりと復習し、解けるように仕上げていく。

この例は、学力が比較的高い児童であっても、時間の計算を初めて習う際には、適切な授業で基礎を学び、宿題で反復練習をしないと身につかないことを示している。しかし、現在の教育現場では、こうした「計算の仕方を教え、宿題で身につけさせる」という一連のオーソドックスな指導が十分に行われていないケースが増えているのだ。基礎事項の指導不足は、子どもの自己肯定感を損なう可能性もはらんでおり、単なる学力の低下以上の深刻な影響を及ぼしかねない。

結論

文部科学省の調査が示す日本の学力低下は、教育現場における重要な課題を浮き彫りにしている。特に、新学習指導要領における探究学習やグループワークの重視が、基礎学力の定着を疎かにする要因となっている可能性が指摘されている。学習塾の現場からの具体的な声や、時間の計算を巡るエピソードは、基礎的な知識や技能を体系的に教え、反復練習する機会の重要性を改めて示唆している。日本の子どもたちが自信を持って未来を切り拓くためには、探究的な学びと基礎学力の確実な定着という二つの要素がバランス良く共存する教育環境を構築することが不可欠である。この問題に対し、教育関係者、保護者、そして社会全体が連携し、具体的な解決策を模索していく必要があるだろう。

参考資料

  • 文部科学省「経年変化分析調査」(2024年)結果
  • 東洋経済education × ICT
  • Yahoo!ニュース