北朝鮮元山葛麻海岸観光地区:豪華絢爛リゾートの裏に潜む「監視と演出」の実態

北朝鮮が11年の歳月をかけて開発を進めてきた日本海側のリゾート地「元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区」。この最新の観光名所を訪れたロシア人観光客の証言が、その華やかな表向きとは裏腹に、「監視と演出」に満ちた観光の実態を浮き彫りにしています。英タブロイド紙「デイリー・メール」が8月13日に報じたところによると、北朝鮮は今年6月に開業したこの葛麻リゾートを「世界に類を見ない夢の観光地」として大々的に宣伝しています。しかし、現状では外国人観光客の入場は原則としてロシア人に限定されており、中国や西側諸国の旅行者は受け入れず、極めて閉鎖的な運営が続いています。

「夢の観光地」元山葛麻リゾートの概要と外国人制限

元山葛麻海岸観光地区は、最大2万人を収容できるホテルやゲストハウス、全長4kmにわたる美しい白砂のビーチ、ウォーターパーク、ショッピングセンターなど、広大な敷地に充実した施設を誇ります。レストランでは牛肉、鴨肉、多様な海鮮料理が提供され、観光客は豪華な滞在を期待できます。

このリゾートを訪れたロシア人女性、ダリヤ・ジュブコワ氏は、「豪華な新築リゾートとして広く宣伝されていたため、純粋に興味が湧いた」と訪問の理由を語っています。しかし、北朝鮮当局は国際社会からの孤立を深める中で、外貨獲得と体制の正当化のため観光業に力を入れているものの、外国人観光客、特に西側諸国からの観光客に対しては厳格な制限を設けています。現在は、政治的・経済的関係が深いロシアからの旅行者のみが入場を許されており、その運営形態は極めて閉鎖的です。

ロシア人観光客が語る「同行者付き」の体験

ダリヤ・ジュブコワ氏は、リゾート滞在中に盗聴などの心配は特になかったと述べていますが、彼女の証言は、北朝鮮の観光における独自の管理体制を示唆しています。「どこへ行っても必ず誰かが同行していた。海辺を散歩するときでさえ誰かが一緒に歩いていた」と彼女は語り、単独での自由行動がほぼ不可能であったことを明らかにしました。同行者たちは「道に迷わないように」と説明していたものの、これは事実上の「同伴監視」であったと推測されます。

北朝鮮元山葛麻海岸観光地区で遊ぶ子どもたち、観光客監視の実態北朝鮮元山葛麻海岸観光地区で遊ぶ子どもたち、観光客監視の実態

彼女の体験は、北朝鮮が観光客の行動を厳しく制限し、望まない情報が外部に漏れることを防ごうとする意図が見え隠れします。一方で、ダリヤ氏は「午前2時に一人でホテルを出てビーチを散歩したこともあるが、そのときは誰からも止められなかった」と述べ、完全に監視下に置かれていたわけではなく、一部の自由が許される場面もあったことを示唆しています。

自由行動の可能性と「演出された風景」の指摘

リゾート施設自体の評価については、ダリヤ氏は好意的な印象を抱いています。「建物のデザインや内装は洗練されており、ビーチもきれいに管理されていた」と、施設の豪華さや清潔さを高く評価しました。

しかし、ロシア紙「コメルサント」のアナスタシア・ドムビツカヤ記者は、元山葛麻海岸観光地区の別の側面を指摘しています。「朝のビーチが無人だったことや、廊下でビリヤードをしていた職員、やや演出された印象の風景を目にした」と彼女は語り、観光地としての自然な日常というよりも、「演出された観光地」としての印象が強かったと述べています。これは、北朝鮮が外界に見せたいイメージを綿密に作り上げ、それ以外の要素は隠蔽している可能性を示唆しています。

結論:豪華さと厳格な管理が交錯する北朝鮮観光の現在

北朝鮮が国家プロジェクトとして莫大な資源を投じて建設した元山葛麻海岸観光地区は、その豪華な施設と「世界に類を見ない夢の観光地」という宣伝文句とは裏腹に、厳格な管理と「演出された」側面を持つ二面性を抱えています。ロシア人観光客の証言からは、訪問客は常に監視され、自由な行動が制限されるという実態が垣間見えます。

これは、北朝鮮が観光を通じて外貨を獲得しようとする一方で、情報統制と体制維持を最優先する国家戦略が反映された結果と言えるでしょう。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発を厳しく非難し、制裁を科す中で、元山葛麻海岸観光地区のようなリゾートが今後どのような役割を果たすのか、そして北朝鮮の観光政策がどのように変化していくのか、引き続き注視していく必要があります。


参考文献