大切なご家族を失われた際、深い悲しみの中で葬儀や役所への届出など、さまざまな手続きに直面します。その中でも、故人が年金を受給していた、あるいは受給予定だった場合、「本来受け取るはずだった年金はどうなるのか」という疑問は多くの方が抱くことでしょう。特に、年金受給開始直前や受給途中に亡くなった場合、その年金の取り扱いや手続きは複雑に感じられるかもしれません。
この記事では、故人が生前に受け取る権利があった年金(未支給年金)の基本的な仕組みから、遺族がそれを受け取るための具体的な手続き、さらには税務上の取り扱いについて、専門的な知見に基づいて分かりやすく解説します。これにより、必要な情報を迅速に把握し、適切な対応ができるよう支援します。
年金支給の基本原則:死亡月までの支給
年金は、受給者が亡くなった月までが支給の対象となります。例えば、3月15日に受給者が逝去された場合、3月分の年金までは受け取る権利がありますが、4月分以降は支給されません。
ここで重要なのは、日本の年金支給が「後払い」である点です。通常、年金は2ヶ月分がまとめて指定口座に振り込まれます。そのため、受給者が亡くなった後も、死亡月以前の年金が一時的に口座に振り込まれることがあります。しかし、死亡月の翌月分以降の年金を受け取る権利は消滅しますので、万が一誤って振り込まれた場合は、速やかに年金事務所に連絡し、返還手続きを行う必要があります。
亡くなった親の年金手続きを考えるイメージ
「未支給年金」の仕組みと受給対象者
故人が生前に受け取るはずだった年金のうち、まだ支払われていない分は「未支給年金」と呼ばれます。この未支給年金は、故人の「相続財産」とは異なり、遺産分割協議の対象にはなりません。代わりに、故人と生計を同じくしていた特定の親族が、自身の権利として受け取ることができます。
受給できるのは、故人と生計を同じくしていた、以下の3親等以内の親族です。具体的には、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹がこれに該当します。例えば、年金の初回支給日を迎える前に故人が亡くなった場合でも、亡くなるまでの期間に受給資格が生じていた年金については、これらの遺族が請求することで受け取りが可能です。これは、遺族の生活保障という側面を持つため、個人の請求権として扱われます。
未支給年金請求の具体的な手続きと必要書類
未支給年金を受け取るためには、いくつかの手続きと書類の提出が必要です。まず、年金受給者が亡くなった場合、原則として「受給権者死亡届(報告書)」を年金事務所または街角の年金相談センターに提出する必要があります。ただし、故人のマイナンバーと年金情報が既に連携されている場合は、死亡届の提出が不要になるケースもありますので、念のため事前に年金事務所へ確認することをおすすめします。
次に、未支給年金を請求するための「未支給年金・未支払給付金請求書」を提出します。この申請には以下の書類が必要となります。
- 故人の年金証書
- 故人と請求者の続柄が確認できる書類(戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写しなど)
- 未支給年金の受け取りを希望する金融機関の通帳または口座情報の写し
- 故人と請求者が別世帯の場合は、「生計同一関係に関する申立書」
- その他、年金事務所が必要と認める書類
これらの書類は、故人が亡くなった日以降に交付されたものである必要があります。また、手続きの詳細や必要書類は個別の状況によって異なる場合があるため、管轄の年金事務所に事前に相談することが最も確実です。
未支給年金と税金に関する留意点
未支給年金は、故人の相続財産とは異なる扱いを受けるため、相続税の課税対象とはなりません。しかし、受け取った遺族にとっては「一時所得」として所得税と住民税の課税対象となります。
一時所得の計算は、「(収入金額-収入を得るために支出した金額)-特別控除額(最高50万円)」となります。受け取った未支給年金がこの特別控除額を超過する場合、原則として確定申告が必要になります。税金に関する詳細は複雑な場合があるため、不明な点があれば税務署や税理士に相談することをお勧めします。
結論
大切なご家族が亡くなった際、年金に関する手続きは多くの疑問と不安を伴うものです。特に、故人が生前に受け取るはずだった「未支給年金」は、その仕組みや手続きが一般にあまり知られていません。しかし、これは遺族にとって重要な権利であり、適切に手続きを行うことで、故人の年金が遺族の生活を支える一助となります。
本記事で解説した年金支給の基本原則、未支給年金の仕組み、具体的な請求手続き、そして税務上の取り扱いを理解することで、必要な対応をスムーズに進めることができるでしょう。手続きに不明な点がある場合は、迷わず管轄の年金事務所や専門機関に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
参考文献
- Yahoo!ニュース (2025年8月18日). 「あと数日で年金受給開始日だった父が亡くなってしまいました。受け取るはずだった「年金」はどうなりますか?」. https://news.yahoo.co.jp/articles/d60e4d436c05d54897020a652e7eda14a650d33d
- (Original content source from Financial Field: https://financial-field.com/pension/entry-221808)