コラム・特派員オンライン
「もう見ることはないのかなぁ」と思っていたら、いた。ソウルの地下鉄の車内。乗客に物品を売る昔ながらの「行商」さんである。鉄道安全法で禁止されているが、今もしたたかに生きながらえていた。
8年ほど前、外国人労働者が多いソウル近郊の安山市へ取材に行ったとき、列車内で大きな声でイヤホンの機能を説明し、販売を始めた行商の男性を見て驚いた。今月、ソウルに着任して同じ路線を使うと、今回もソウルから少し離れて車内が多少すいた頃に現れた。
ただ、違いがある。取り締まりの車内放送だ。商品のチラシを車内の壁に張っていれば、どこで車掌が気付くのか、「広告を張るのはやめてください」「次の駅で降りてください」という車内放送がすぐに流れる。車掌の判断で、下車するまで発車しないことがあるなど、対応は厳しくなっているようだ。
冒頭の行商の女性は、腕の日焼け止めのアームカバーを乗客の女性2人に売り、次の駅で足早に降りていった。生活が懸かっているから、めげずに繰り返すのだろう。続けられる違法な車内販売からは、ソウル首都圏の貧富の影も垣間見える。(竹次稔)
西日本新聞