「なぜ、そう思うの?」や「なぜなぜ分析」など、「なぜ?」という問いは、論理的思考を促す「良い質問」だと一般的に考えられています。しかし、実はこの「なぜ?」や「どうして?」という問いかけが、会話に致命的な「解釈のズレ」を生み出し、「空中戦」と呼ばれる噛み合わないやり取りの元凶となる「最悪の質問」であると指摘されています。
「事実と解釈の違いに気づけていない人は、まだ確実に“曇りガラス”の中にいます」。そう語るのは、40年にわたり「良い質問」を磨き続けてきた対話のプロ、中田豊一氏。話題の新刊『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』では、世界各地で実践と観察を重ねてきた著者による「賢い質問の方法」、すなわち「事実質問術」が紹介されています。本記事では、その中から特に注意すべき「ありがちなNG質問」について、具体例を交えながら解説します。
「お盆休みどうだった?」はなぜ良くない質問なのか
お盆休み明け、職場で久しぶりに顔を合わせた同僚や部下に、何気なく「お盆休みはどうだった?」と声をかけていませんか。一見、相手を気遣う優しい問いかけに見えますが、実はこれは決して良い質問とは言えません。その理由と、より効果的な問いかけ方について考えてみましょう。
相手に「何を話せばいいか」という負担を与える
もしあなたが上司から「お盆休み、どうだった?」と聞かれたら、どのように答えるでしょうか?まず最初に悩むのは「何を答えよう?」ではないでしょうか。実家に帰省した話、旅行の出来事、あるいは何もしていないこと──何を話すべきか迷ってしまいます。特に、まだ関係性が深く築かれていない相手に聞かれた場合、「とりあえず無難に答えておこう」という心理が働きやすくなります。
つまり、「どうだった?」という漠然とした質問は、答える側に対して“何を話せばいいのか”を考えさせる負担を与えてしまうのです。この負担が、その後の会話の広がりを妨げる要因となります。
質問の意図が曖昧で会話が広がらない
多くの場合、「お盆休みはどうだった?」と尋ねる側は、特に具体的な答えを期待しているわけではありません。「会話の間を埋めたい」「とりあえず何か聞かなければ」という気持ちから、無意識にこのような漠然とした質問をしてしまっているケースがほとんどです。聞く側にとっては手軽な質問ですが、相手には負担をかける「怠惰な質問」になってしまっているのです。
その結果、返ってくる答えは「まあまあでした」「特に変わりないです」といった、それ以上会話が広がらない一言で終わってしまうことが少なくありません。せっかくのコミュニケーションの機会が、このような形で終わってしまうのは残念なことです。
相手に負担をかけないコミュニケーションを意識するビジネスパーソンの会話風景
会話を広げる「事実質問」の威力
では、どのようにすれば良いコミュニケーションを築けるのでしょうか。ここで推奨されるのが、「事実質問」に言い換える方法です。「事実質問」とは、「いつ(When)」「どこで(Where)」「だれが(Who)」「何を(What)」「どのように(How)」という5W1H(ただし「なぜ(Why)」と、漠然とした「どのように(How)」は除く)を使って、具体的な事実を引き出す質問のことです。例えば、先ほどの「お盆休みどうだった?」という質問を、次のように変えてみてください。
- 「お盆休みは、どこかへ行ったの?」(Where)
- 「お盆休みのいつ頃、出かけたの?」(When)
「それだけ?」と思うかもしれません。しかし、このシンプルな問いかけにより、相手は「何を答えればいいのか」と迷うことなく、具体的な事実を思い出し、スムーズに答えることができます。そして、事実に基づいた答えは、さらに具体的な質問へと繋がり、自然と会話が広がっていくのです。ぜひ一度試してみてください。信じられないほどの効果を実感するはずです。
良い質問が築く良好な人間関係
優れた人間関係の基本には、必ず質の高いコミュニケーションが存在します。そして、その良いコミュニケーションの出発点には、常に「良い質問」があります。曖昧な質問ではなく、事実に基づいた具体的な質問を心がけることで、相手に余計な負担をかけず、より深く、より意味のある会話を促進することができます。これにより、信頼関係が構築され、職場の人間関係はもちろん、あらゆる個人的な関係性においても大きな改善が期待できるでしょう。
本記事で紹介した「事実質問術」は、日々のコミュニケーションを円滑にし、人間関係を豊かにするための強力なツールです。今日から「なぜ?」と問う代わりに、具体的な「事実」に焦点を当てた質問を実践し、会話の質を高めていきましょう。
参考文献
- 中田豊一 著『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』
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