チェコ原発輸出巡る契約、韓水原とウェスティングハウス間の「不平等」問題の深層

韓国水力原子力(韓水原)が推進するチェコ・ドコバニ原子力発電所建設プロジェクトを巡り、米国の原子力企業ウェスティングハウスとの間で締結された契約が「不平等」であるとして、大きな議論を呼んでいます。この問題の背景には、原子炉の基幹技術である加圧水型原子炉(PWR)の「原点技術」をウェスティングハウスが保有しているという複雑な事情があります。

2025年初頭、韓水原と韓国電力は、チェコへの原発輸出を巡る知的財産権(IP)紛争を解決するため、ウェスティングハウスと契約を結びました。この契約には、韓国が今後小型モジュール炉(SMR)を輸出する際にもウェスティングハウスの技術検証が必要となる条項や、原子炉1基あたり数億ドルに及ぶロイヤリティを長期にわたり支払う内容が含まれているとされています。これに対し、「韓国の技術的自立を無視した不当な譲歩だ」という批判と、「国際市場で競争するためには避けられない選択だった」という見方が対立しています。

チェコ原発輸出巡る契約、韓水原とウェスティングハウス間の「不平等」問題の深層

知的財産権の核心:ウェスティングハウスの「原点技術」支配

韓国は独自の原発設計・建設能力を高い水準で確立し、APR-1400と呼ばれる国産型原子炉の開発に成功しています。冷却材ポンプ(RCP)、計測制御システム(MMIS)、設計コードといった主要技術も自国で保有しています。しかし、APR-1400自体が、ウェスティングハウスが1957年に開発した加圧水型原子炉(PWR)技術を基盤としています。その「原点技術」の特許は、依然としてウェスティングハウスが保持しています。韓国は1987年以降、米国コンバスチョン・エンジニアリング(CE)社と契約を結び、技術導入と使用料支払いを経て技術基盤を築いてきましたが、CEの特許は後に企業買収によりウェスティングハウスが保有することになりました。

このため、韓水原の「技術自立」という主張は部分的な正当性を持つものの、法的・技術的には完全に独立しているとは言えない構造にあります。業界関係者は、この関係を「スマートフォンにおけるサムスンやアップルと、初期特許を持つクアルコムやノキアの関係に似ている」と説明しています。韓水原のファン・ジュホ社長も2025年8月19日、国会産業通商資源中小ベンチャー企業委員会で、「技術自立と原点技術の関係について、国民への十分な説明が足りなかった」と陳謝する事態となりました。

契約内容の詳細と政治的背景への疑念

さらに、韓水原が原発輸出の見返りとして、ウェスティングハウスに原子炉1基あたり最大6億5000万ドル相当の物資・サービス購入契約を結んだことも明らかになりました。これは、チェコのドコバニ原発受注が確定的になった2025年1月に合意されたものです。

この契約内容を巡っては、「知的財産権紛争の早期解決を急いだ韓水原に対し、政府や大統領室からの政治的圧力が働いたのではないか」という疑念も一部で提起されています。一方で、「ウェスティングハウスには供給網や施工能力が不足しているため、最終的には韓国企業に契約が戻ってくる可能性が高い」という擁護論も存在し、論争は続いています。

まとめ

チェコ・ドコバニ原発プロジェクトに関する韓水原とウェスティングハウス間の契約は、韓国の原子力技術自立と国際市場における競争力、そして知的財産権の複雑な関係性を浮き彫りにしています。高度な国産技術を保有しながらも、「原点技術」の特許に起因するロイヤリティや制約は、今後の韓国の原発輸出戦略、特にSMR分野における課題として、長期的な影響を及ぼす可能性があります。この問題の動向は、世界の原子力産業と国際ビジネスにおける技術覇権の構造を示す事例としても注目されています。


参考文献:
KOREA WAVE/AFPBB News