中国若者の「偽装出勤」が社会現象に:不況下の新たな心理的拠り所

中国では経済の長期低迷と若年層の失業率高止まりを背景に、「偽装出勤」と呼ばれるユニークな社会現象が広がっている。これは、職を失った若者たちが、失業を家族や社会に知られないよう、シェアオフィスに出向いてあたかも仕事をしているかのように振る舞うというものだ。各地で同様のレンタルオフィスが開設され、タイムカードの設置や上司役の従業員が巡回するサービスを提供するなど、職場らしさを演出している。

「偽装出勤」オフィスの実態:杭州市の事例と全国への広がり

浙江省杭州市の地元メディア「杭州網」は、「有料で“出勤ごっこ”をするのはどんな人たちか」と題し、この地域の「偽装出勤会社」の様子を詳しく報じた。記事によると、1日30元(約616円)でデスク、Wi-Fi、お茶が提供され、開業からわずか2カ月で30~40人が利用しているという。主な利用者層は、生活リズムを保ち無気力状態を回避したい失業者、職場の雰囲気を体験したい新卒者、そして安価な事務所を求める若手起業家だ。

中国メディアは4月時点で、同様の事務所が北京、上海、西安、ハルビンといった主要都市に拡大していることを指摘している。中には、失業期間を埋める目的で「在職証明書」を発行すると宣伝する業者まで存在する。

心理的側面と社会からの圧力

この「偽装出勤」現象には、深い心理的背景がある。心理カウンセラーは「失業者にとって偽装出社は一種の心理的な慰めだ」と指摘する。これにより、失業者は一時的に家庭や社会からのプレッシャーに直面することなく、精神的な安定を保つことができるという。特に、面子を重んじる中国社会において、失業は大きな社会的烙印となり得るため、このようなサービスが求められている。

北京の現場から見た「偽装出勤」の多様な利用層

本紙記者が北京の経済開発区にある「偽装出勤」オフィスを訪れると、ビルの外壁やドアには堂々と「偽装出勤」と書かれた看板が掲げられていた。初回利用は1日9.9元(約200円)、2回目以降は同49.9元(約千円)で利用可能で、1カ月ほど前に開業したばかりだという。

北京の「偽装出勤」レンタルオフィス内部。多くの若者がパソコンで作業し、会議室や休憩室も完備されている様子北京の「偽装出勤」レンタルオフィス内部。多くの若者がパソコンで作業し、会議室や休憩室も完備されている様子

オフィス内には20席以上のデスクがあり、会議室や休憩室、さらにはカメラを備えたライブ中継ルームまで完備されている。水、ビール、アイスクリーム、お菓子などは全て無料で提供され、利用者にとって快適な環境が整えられている。訪れた際には若者を中心に10人ほどが熱心にパソコンで作業しており、オフィスの担当者は「失業した人も来るが、起業に向けて準備している人が多い。毎日通っても高くないし、何より気楽だから」と利用者の実情を語った。

中国経済と若年失業率の現実

中国の公式統計によると、都市部の16~24歳における失業率は15%前後で高止まりしており、これは経済の減速と企業の相次ぐ人員削減の動きを反映している。北京の企業関係者は、「失業を機に自ら起業を目指す人も多く、こうしたオフィスが彼らの受け皿となっている可能性がある」と分析している。

「偽装出勤」は、中国の若者たちが直面する厳しい経済状況と社会的な圧力を浮き彫りにする現象である。単なる「ごっこ」遊びではなく、精神的な支えや、新たなキャリアを模索する場としての役割も果たしていると言えるだろう。

参考文献:

  • 西日本新聞
  • 杭州網
  • Yahoo!ニュース