米国では、ドナルド・トランプ前政権が再選した場合、国内に半導体工場を建設する企業への補助金支給の見返りとして、その企業の株式取得を求める方針を打ち出しました。これは、前任のジョー・バイデン政権が施行した半導体法(CHIPS法)に基づく既存の契約を覆し、米国の半導体覇権をさらに強固にすることを目指す動きと見られています。この方針は、米国への大規模投資を進めているサムスン電子やSKハイニックスといった韓国企業に大きな戸惑いを与えており、最悪の場合、サムスン電子の株式が李在鎔会長の保有分に匹敵する規模で米政府に渡る可能性も指摘されています。一部からは、トランプ政権が半導体補助金の支給自体を撤回するための「口実」を作ろうとしているのではないかとの疑念も上がっています。
トランプ政権、半導体補助金の「株式要求」方針を明言
ハワード・ラトニック米商務長官は11月19日(現地時間)のCNBCとのインタビューで、バイデン政権のCHIPS法を「裕福な大企業に現金をばらまくもの」と批判しました。その上で、「トランプ大統領はバイデン政権が支給しようとした資金を株式への投資方式に変えるものであり、納税者にとってもはるかに賢明な方式だ」と述べ、新方針の正当性を主張しました。これは、インテルに109億ドルの補助金を支援する見返りとして、米政府が同社株式の約10%を買収する案を検討中という報道が事実であることを確認するものです。ラトニック長官は、補助金支給額と同額の株式を政府が確保し、そこから得られる配当などの収益を米国民のために使うという論理を展開しましたが、議決権は行使しないとしています。
ロイター通信も同日、「ラトニック長官は、CHIPS法に基づき補助金を受けて米国に工場を建てる半導体企業から、米政府が株式を引き取る案を検討している」と報じました。その候補として、米国のマイクロン、台湾のTSMC、そして韓国のサムスン電子の名前を挙げており、インテルだけでなく、これら大手半導体企業も補助金と引き換えに株式を譲渡する可能性が示唆されています。
米国のハワード・ラトニック商務長官。同氏は半導体補助金の見直しと株式取得の方針をCNBCのインタビューで明らかにした。
サムスン電子、SKハイニックスへの影響:李在鎔会長の持株に匹敵か
トランプ政権の方針は、米国に大規模な半導体投資を行っている韓国企業に直接的な影響を与えます。サムスン電子はテキサス州テイラーに51兆ウォン(約5兆3900億円)を投資してファウンドリ(半導体受託生産)工場を建設する計画で、米政府から47億4500万ドル(約7千億円)の補助金が約束されています。また、SKハイニックスもインディアナ州に5兆ウォン(約5200億円)を投じて半導体パッケージング工場を建設する見返りに、4億5800万ドル(約670億円)の補助金を受け取る予定です。これらの補助金支給額は、バイデン政権下の昨年12月に米商務省が確定・発表したものです。
もしトランプ政権が実際の補助金支給額に比例して新株発行を求めた場合、サムスン電子は時価総額に基づき約1.56%の持分(11月20日終値基準)を米政府に差し出すことになります。これは、現在、李在鎔会長が保有する1.65%に迫る規模であり、サムスン電子の一般株主らも株式保有率の希釈などの被害を受けざるを得ません。国内企業の関係者は「既存の契約を無視して株式を得るという米国政府の話を理解できない」と困惑を示し、今後の動向を注視する姿勢です。
米テキサス州テイラーに建設中のサムスン電子ファウンドリ工場。トランプ政権の半導体補助金方針変更が投資に与える影響が懸念される。
専門家の厳しい見方:「受け入れ難い条件」と「補助金廃止の口実」
韓国の専門家からは、トランプ政権の新方針に対し厳しい見方が示されています。産業研究院のキム・ヤンパン専門研究員は、「特定国家の政府が外国企業に株式を要求すること自体がとんでもないものであり、韓国企業がこれをそのまま受け入れてはならない」と強く批判しています。彼は、トランプ大統領が大統領選挙の時から半導体補助金の縮小・廃止を公言してきた経緯を踏まえ、「わざと企業が受け入れられない条件を掲げて補助金を支給しない口実を作っているのではないか」との疑念を表明しました。
対外経済政策研究院のキム・ヒョクチュン副研究委員も、「(ラトニック長官の話のように)米政府と企業が取引をする構造になれば、もはや半導体法上の財政支援とは言えない」と指摘しています。さらに、「もし米政府が契約を一方的に覆し、様々な条件をつけて決まった予算を使うことができない場合、議会が承認した予算執行を大統領が拒否するものと解釈できる」とし、新方針が米国の法制度上の問題を引き起こす可能性も示唆しています。
結論
トランプ政権が再選した場合に示唆された半導体補助金と引き換えの株式要求方針は、国際的なビジネス慣行に反するものであり、特にサムスン電子やSKハイニックスといった米国に大規模投資を行う企業にとって大きな経営リスクとなります。既存の契約を一方的に変更しようとする動きは、企業活動の予見可能性を損ない、今後の対米投資戦略にも影響を与える可能性が高いです。米国政府の動向、そしてこれに対する企業や他国政府の対応が注目されます。
参考文献
- Yahoo!ニュース: ラトニック商務長官、半導体補助金分だけ株式を要求する方針 サムスン電子が受け取る補助金は株式の1.56%規模 イ・ジェヨン会長(1.65%)の保有分に迫る