夫婦関係の悩みは「こうあるべき」を手放すことで癒される?仏教が説く真の愛の形

家事や育児、仕事に追われる現代社会において、夫婦間のすれ違いや不満は珍しいことではありません。多くの夫婦が「理想の夫婦像」を追い求める中で、現実とのギャップに苦しんでいます。しかし、仏教では心を癒し、関係をより良いものに変えるための第一歩として「慈悲の心」と「固定観念からの解放」を説きます。現役の僧侶が語る、真に愛ある夫婦の形とはどのようなものなのでしょうか。日本の離婚率が3組に1組と言われる時代に、夫婦が直面する課題と、それを乗り越えるための新しい視点を探ります。

現代の夫婦関係が抱える課題:理想と現実のギャップ

熟年夫婦が寄り添って歩む姿を見た時、自分たちもいつかそうなりたいと願う夫婦は少なくないでしょう。しかし、現実の夫婦生活は理想とはかけ離れていると感じることも多々あります。「ずっと愛し合う関係を続けたい」「時間が経てば愛が情に変わる」といった様々な悩みは尽きることがありません。

現代の日本において、離婚率は約35%前後とされ、実に3組に1組の夫婦が離婚に至っています。さらに、生涯未婚率も年々上昇しており、2020年には男性の約28%、女性の約18%が生涯結婚しないという統計が出ています。これらの数字は、そもそも夫婦という関係性自体が限界を迎えているのではないか、という問いを私たちに投げかけています。

理想的な夫婦関係を象徴する、寄り添って歩く熟年夫婦の後ろ姿理想的な夫婦関係を象徴する、寄り添って歩く熟年夫婦の後ろ姿

仏教が説く「あるべき姿」からの解放:諸行無常の真理

仏教が示す夫婦の形には、「こうあるべき」という固定された姿はありません。これは仏教の根本的な教えである「諸行無常(しょぎょうむじょう)」の真理に基づいています。この世のすべてのものは常に移り変わり、とどまることがないという考え方です。「こうあるべき」「こうでなければならない」といった先入観や固定観念は、この真理に反するとされます。

夫婦関係も例外ではありません。たとえ結婚の誓いを交わしたとしても、永遠に変わらない関係というものはなく、常に変化し続けるものとして捉える必要があります。そのため、夫婦に一つの「あるべき姿」はなく、10組の夫婦がいれば10通りの夫婦の形があるのです。週末だけ一緒に過ごす夫婦も、毎日を共に過ごす夫婦も、それぞれの関係性において「立派な夫婦」であると言えます。あるべき姿がないからこそ、それぞれが最も生きやすく、心地よく過ごせる夫婦の形を見つけることが、理想の夫婦関係と言えるでしょう。

「〇〇すべき」思考の危険性:固定観念がもたらす苦しみ

「〇〇すべき」「こうあるべき」という「べき」という言葉は、私たちの心に苦しみを生じさせる危険な考え方です。「妻は家事をやるべき」「夫も洗濯をするべき」といったように、妻や夫という立場によって役割を一括りにしてしまうことは、夫婦の悩みに陥りやすい原因となります。

近年では、「イクメン(育児に積極的に参加する男性)」という言葉や風潮が増え、男性も育児を行うことが推奨されています。これは男女共働きが当たり前となり、男女平等社会を目指す上で非常に重要な取り組みです。しかし、真の平等社会とは、そもそも「イクメン」という概念がなくなることではないでしょうか。「イクメン」という言葉が成立する時点では、女性が育児をすることが前提であり、そこに男性が積極的に参加することを推奨する、という考え方に陥ってしまいます。

そうではなく、男性も女性も育児をして当たり前、夫も妻も働いて当たり前。そして、そういったお互いの「当たり前」に感謝して生きる。これこそが、どちらか一方の固定観念に囚われない、理想的な男女関係と言えるでしょう。

完璧ではない人間だからこそ、夫婦は助け合う

残念ながら、人間は完璧な存在ではありません。誰もが迷い、不完全な生き物です。そのため、夫婦生活においても、得意なこともあれば苦手なこともあり、やりたくないと感じることも多々生じます。それを「男性だから」「女性だから」「夫だから」「妻だから」と役割を押し付けてしまうからこそ、理想の夫婦像というものが生まれてしまいます。

しかし、夫婦関係に最初から理想の形など存在しないのです。それぞれに異なる人間が共同生活を送る以上、お互いの弱点を補い合い、助け合わなければ、関係がうまくいくはずがありません。完璧ではないお互いを認め、支え合う心こそが、夫婦が共に歩む上で最も大切な要素なのです。

結論

夫婦関係における悩みや理想は尽きませんが、仏教の教えは私たちに「あるべき姿」という固定観念を手放すことの重要性を説いています。「諸行無常」の真理を受け入れ、夫婦の関係は常に変化し続けるものと捉えることで、私たちは「〇〇すべき」という思考の苦しみから解放されます。男女平等が当たり前の現代において、性別や役割に囚われることなく、お互いの存在そのものに感謝し、助け合うことが真の理想的な夫婦像です。完璧ではない人間同士が、それぞれの得意・不得意を補い合い、支え合うことで、唯一無二の、そして心地よい夫婦関係を築くことができるでしょう。

参考資料

  • 泰丘良玄『しんどさの癒やし方:不安になったらいちばん最初に読む本』(アルソス)
  • Yahoo!ニュース (記事掲載元: DIAMOND online) 「しんどさの癒やし方」より抜粋・編集