お笑いコンビ「オオカミ少年」で活動する筆者は、探偵事務所の代表も務めており、探偵歴十数年の中で多岐にわたる調査依頼を受けてきました。その大半は不貞調査ですが、今回ご紹介するのは、夫の突然の豹変により幸せだった人生が根底から揺さぶられ、幼い子どもを抱え精神的に追い詰められた若い母親の物語です。
家族思いだった夫の突然の豹変:幸せな日々の崩壊
依頼者の川中美緒さん(29歳)は、1歳と3歳のお子さんを抱える母親です。彼女の顔には拭いきれない不安と疲労の色が深く刻まれており、かろうじて笑顔を作ろうと努めながらも、少し気を抜けば涙が溢れてしまうほど精神的に追い詰められている様子でした。美緒さんは、夫である川中稔さん(31歳)の不可解な行動について、絞り出すような声で語り始めました。
「たった3カ月前までは、毎週のように家族で外出してキャンプに行ったり、お揃いのTシャツをプレゼントしてくれたり、本当に仲の良い夫婦だったんです。私の両親とも良好な関係を築いてくれていました。それが、たった1カ月前から、あの優しかった夫とは思えないほどに豹変してしまったんです」
稔さんは以前、仕事が終われば19時には帰宅し、家事や子どもをお風呂に入れるなど、夫婦共働きで育児や家事にも積極的に協力してくれていました。しかし、約1カ月前から週に2日は「残業だ」と言って夜中の1時に帰宅したり、寝かしつけを頼んだはずの子どもが大泣きしているので見に行くと稔さんの姿はなく、電話をかけると「眠れないから散歩していた」と、これまでの彼の行動からは考えられない変化が見られるようになりました。
育児に協力的だった夫と幼い子どもたち。幸せだった頃の家庭の風景
「モラハラ」を主張する夫からの衝撃的な離婚協議書
そして2週間前、稔さんは一方的に離婚を切り出し、驚くべき内容の「離婚協議書」を美緒さんに突きつけてきました。その内容は以下の通りです。
- 妻(美緒さん)のモラハラによってうつ病を発症したため、婚姻関係を継続できない。仕事にも支障が生じ、社会的立場を著しく毀損されたため、妻に慰謝料を請求する。
- 子どもの親権は渡すが、養育費は慰謝料分を差し引く形で相殺する。
- 2カ月以内に離婚届を提出することを要求する。
協議書には、うつ病を発症したとする医師の診断書も添えられていました。美緒さんは、「『何がモラハラなの?』と何度尋ねても、『育児や家事でイライラされ、無言の圧力がキツくて家に居場所がない』『仕事にも身が入らない、ずっと一緒にいられない』の一点張りで、後は黙り込んでしまうんです。確かにイライラして強い態度を取ることはあったかもしれませんが、それがモラハラになるとは到底思えません。お互い様だと感じています」と訴えました。
稔さんは約3年前に職場の人間関係が原因でうつ病を発症し、半年間の休職経験がありました。美緒さんも夫の精神的な不調には常に気を配っていましたが、復職後は治療を受けておらず、今回の主張はあまりにも一方的で到底容認できるものではありませんでした。
育児・家事を放棄し引きこもる夫:追い詰められる妻の極限状態
離婚を切り出して以降、稔さんは育児や家事を一切放棄し、自室に引きこもるようになりました。子どもたちの保育園の送迎、食事の準備、入浴、寝かしつけまで、美緒さんが仕事をしながら全て一人でこなす日々が続きます。
体力的な限界に加え、精神的な負担もピークに達し、美緒さんは仕事中や通勤中でも気を抜くと涙が止まらない状態になっていました。「どんどん感情がコントロールできなくなっていることを実感しましたし、こめかみにジンジンする痛みも出るようになり、夜も眠れなくなって、このままでは自分が壊れてしまうと思いました」と、美緒さんは極限状態を吐露しました。
そんな追い詰められた美緒さんに、さらなる過酷な現実が降りかかってきたのです。





