日本各地で異常な暑さが続き、特に東京都心では、今年最長となる6日連続の猛暑日が記録されました。この厳しい暑さの中、命の危険に直結する熱中症のリスクは、経済的に困難な状況にある人々、特に「エネルギー貧困」に直面する高齢者層で顕著に高まっています。経済的な理由からエアコンの使用や設置ができない現場を掘り下げます。
記録的な猛暑と急増する熱中症搬送
今年の夏季、猛暑は例年以上に深刻な健康被害をもたらしています。東京都では、2025年5月1日から8月17日までの期間に、熱中症で救急搬送された人が6855人に達し、2024年の同時期を大幅に上回る推移を見せています。都内で訪問診療を行う「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長は、熱中症患者の往診やその後のケアが昨年と比較にならないほど増えていると語ります。
82歳男性のケースに見る「エネルギー貧困」の実態
8月21日、田代院長は大田区のアパートを訪れました。建物に囲まれ風通しが悪く、蒸し暑い部屋で一人暮らしをする82歳の男性を往診するためです。田代院長がこの男性の自宅を初めて訪れたのは、東京都心で最高気温35.8度を記録した7月8日のことでした。ケアマネジャーからの連絡を受け往診した際、男性は意識が朦朧とし、汗をかけないほどの重度の脱水状態に陥る熱中症を発症していました。
猛暑の中、経済的困難からエアコンが設置されていない自宅で暮らす高齢男性の姿。熱中症リスクに直面する「エネルギー貧困」の現状を表す一枚。
男性は当時「ペンギンのようにちょこちょこしか歩けなくなった」と振り返り、田代院長は「遅ければ重症化していたかもしれない」と指摘します。男性の部屋には賃貸のためエアコンが設置されておらず、訪問時には扇風機すらありませんでした。現在使用している扇風機は、田代院長がその日に購入して貸与したものです。男性は常々暑さを感じていたものの、経済的な理由から「そんなすぐ準備できない」と語り、生活保護を受けていることが示唆されました。エアコンの購入を勧められても、その経済的負担は大きいのが現状です。
まとめ:社会問題としての「エネルギー貧困」
この事例は、日本社会が直面する「エネルギー貧困」という深刻な課題を浮き彫りにしています。記録的な猛暑が続く中、経済的な事情で冷房機器を利用できない人々は、直接的な生命の危険にさらされています。特に高齢者や独居世帯において、熱中症による健康リスクは計り知れません。個人の努力だけでは解決できないこの社会問題に対し、脆弱な人々を猛暑から守るための効果的な政策的介入が喫緊の課題として求められています。
参考文献
- TBS NEWS DIG Powered by JNN. (2025年8月23日). エアコンなく熱中症後も「我慢するんですよ」 猛暑から守る有効な政策がない“エネルギー貧困”の現場【報道特集】. https://news.yahoo.co.jp/articles/a5bd96e3e2c3d984b37c1d6df97ef947c5a4ef28