「成果主義よりも年功序列」。2025年度入社の新入社員を対象とした最新調査で、日本の若手層の働き方に対する意識に変化の兆しが見られます。かつては個人の能力や成果が重視される傾向にあった現代社会において、なぜ今、終身雇用や安定志向が再び注目を集めているのでしょうか。本稿では、この興味深い調査結果と、その背景にある新入社員の価値観の変化について深掘りします。
産業能率大学の調査で判明:過半数が「年功序列」を支持
学校法人「産業能率大学総合研究所」が毎年実施している新入社員意識調査の2025年度版で、「年功序列的な人事制度と成果主義的な人事制度のどちらを望むか」という設問に対し、年功序列を望むと回答した割合が過半数を超え、56.3%に達しました。具体的には、「年功序列」が14.6%、「どちらかといえば年功序列」が41.7%です。これに対し、成果主義を望む声は43.6%(「成果主義」6.5%、「どちらかといえば成果主義」37.1%)に留まりました。
この結果は、1990年度から続く36回目の調査で初めて、年功序列支持派が成果主義支持派を上回り、過半数を占めたという点で極めて注目されます。年功序列を望む新入社員の割合は2022年度の38.9%から徐々に上昇し、2024年度には48.5%で過去最高を記録。そして2025年度にはさらにこの割合が高まり、記録を更新しました。
オフィスで働く若い世代の社員たち、日本の労働市場の変化を象徴
強まる「安定志向」:終身雇用と長期勤続への期待
新入社員の安定志向は、人事制度への希望だけでなく、他の項目からも強く見て取れます。「終身雇用」を望む割合は69.4%に達し、「同じ会社に長く勤めたい」と回答した新入社員も51.8%と、いずれも増加傾向にあります。これは、長期的なキャリアの安定を重視する現代の若者、特にZ世代の意識を色濃く反映していると言えるでしょう。変動の激しい社会情勢の中で、雇用や生活の基盤に対する確実性を求める傾向が強まっていることが伺えます。
福利厚生と給与水準が重視される理由:若手世代の変化
就職先を選ぶ際に新入社員が重視した点の上位3つは、「福利厚生」、「業種」、「給与水準」でした。特に「福利厚生」と「給与水準」は重要度が増加する一方で、「職務内容」や「企業風土」、「職種」といった要素へのこだわりは相対的に弱まる傾向が見られます。
都内のPR会社に勤務する20代女性のコメントからは、個人的な成果主義への志向と、周囲の若手層との意識の乖離が伺えます。彼女自身は成果主義を求めて転職したものの、自分よりも若い世代が育児休暇などの福利厚生が充実した会社を選ぶ傾向にあることを実感しています。このことは、単に「お金」だけでなく、ワークライフバランスや安心して働ける環境を重視するZ世代の働き方観が広がりつつあることを示唆しています。
結論
2025年度入社の新入社員の意識調査は、日本の労働市場における重要な変化を示しています。成果主義への期待が薄れ、年功序列や終身雇用といった安定を志向する傾向、そして福利厚生や給与水準といった実利的な要素が就職先選びの決め手となる流れは、企業が今後の人材戦略を考える上で無視できないものです。採用側は、若手社員が求める「安定」と「充実した環境」をどのように提供できるか、改めて見直す時期に来ていると言えるでしょう。