近鉄グループホールディングス(GHD)は、大阪の人工島・夢洲(ゆめしま)に建設される統合型リゾート施設(IR)と、奈良、京都、伊勢志摩といった主要観光地を結ぶ直通観光列車について、実際の線路を用いた運行試験を開始する方針を明らかにしました。これは、2030年秋に予定されている夢洲IRの開業に先行して運行開始を目指すもので、訪日客の周遊需要を強力に喚起し、近畿圏全体の活性化に貢献する重要な戦略として注目されています。
新型ハイグレード観光列車で広域周遊を促進
この直通列車の運行は、特に海外からの観光客が夢洲IRを起点に、日本の豊かな文化や自然を持つ奈良、京都、そして伊勢志摩へと足を延ばしやすい環境を整備することを目的としています。導入される列車は新開発のハイグレードな観光列車が想定されており、快適性と移動そのものをコンテンツとして楽しんでもらう工夫が凝らされます。若井敬社長は産経新聞のインタビューに応じ、「営業時間外に実際の線路で試す」と述べ、走行性能、耐久性、環境への適合性などの実地検証を徹底的に進める考えを示しました。
運行ルートは、奈良、京都、伊勢志摩方面から東大阪市の長田駅までは近鉄の線路を使用し、長田駅から夢洲駅までは大阪メトロの線路に乗り入れる計画です。この異なる鉄道会社の線路を直通するためには、二種類の集電方式に対応可能な新型車両の開発が不可欠であり、現在、近鉄GHDは車両開発に注力しています。
近鉄が夢洲直通観光列車に投入を想定する新型車両のイメージ
IR運営会社「MGM大阪」との連携と地域への波及効果
若井社長は、直通列車を「IRに来た客を奈良や京都、伊勢志摩に直接運ぶ、一つのコンテンツとして楽しんでもらう」と位置づけ、IR運営会社である「MGM大阪」と緊密に連携し、どのような客層をターゲットにするか具体的な協議を進めていくと説明しました。
この直通運行が実現すれば、各方面への地域経済効果も期待されます。夢洲と直結する奈良では、将来的な新たなホテル建設も検討されており、観光インフラの拡充が進む可能性があります。また、訪日客の誘客増加が課題となっている伊勢志摩地域では、周辺観光地との周遊を組み合わせた新たな旅行商品の開発が模索されており、地域全体の観光振興に寄与する見込みです。
近鉄GHDは、IR事業自体にも積極的に関与する方針です。MGM大阪への小規模な出資に加え、グループが培ってきた海外からの団体旅行客の訪日ツアー手配の実績を生かし、IRへの団体旅行や国際会議・展示会(MICE)施設への誘客を手掛けます。さらに、ホテルの運営受託や物販、消耗品の納入といった多岐にわたる事業展開を目指し、IRプロジェクトの中核的なパートナーとしての役割を担います。
大阪・上本町地域の再開発も進行中
近鉄GHDは、夢洲IRへの取り組みと並行して、本社を構える大阪・上本町地域における大規模な再開発計画も推進しています。大阪上本町駅と周辺地域の一体的なまちづくりを目指し、現在の経営計画期間中である2028年度末までに、再開発計画の概要をまとめる予定です。この再開発は、近鉄GHDが近畿圏の経済活性化に貢献するもう一つの柱となるでしょう。
近鉄GHDの一連の戦略は、夢洲IR開業を契機に、関西地域の国際競争力強化と持続可能な観光発展に貢献することを目指しており、その動向が注目されます。
参考文献
- 産経新聞 (Yahoo!ニュース記事を参考に作成)