「静かな退職」への企業の有効なアプローチとは? インディード調査が示す「成長機会」と「挑戦支援」の重要性

近年、多くの職場で耳にするようになった「静かな退職」という現象。これは、従来の熱心な勤務姿勢を捨て、職務に対して最低限の責任だけを果たす働き方を指します。身近な上司や部下、同僚の中に「静かな退職者」がいると感じる人も少なくない中、企業側がこの課題にどう向き合い、効果的なアプローチを見出すべきかという問いに対し、新たなヒントが浮かび上がっています。特に、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、人材定着を図る上での鍵が、最新の就業意識調査によって示されています。

報酬よりも「成長」と「挑戦」が鍵

インディードリクルートパートナーズ(東京都千代田区)が実施した就業意識調査は、「静かな退職者」に対して企業・組織側がどのようにアプローチすれば最も有効かを示す実践例を導き出しました。その結論は明確です。それは「気づきを与える助言」よりも「新たな挑戦に対する支援」であり、「十分な報酬」よりも「経営理念への共感・学びや成長の機会」の提供が重要であるというものです。

この調査は今年3月、国内の20歳から69歳の就業者を対象に行われました。分析にあたっては、「仕事に対する価値観」でポジティブな項目を選択しなかった人や、「人生における仕事の重要度」が5以下と評価した人などを「静かな退職者と見なせる群」(以下「静かな退職者群」)に分類し、全体の傾向と比較しています。

「静かな退職者」と全体に見られた顕著な差異

インディードリクルートパートナーズが特に注目したのは、「上司や同僚から得られている情報・支援」と「所属企業に対する認識」に関する回答に現れた“違い”です。この比較から、「静かな退職者」が組織内でどのような支援を不足していると感じているかが浮き彫りになりました。

「上司や同僚から得られている情報・支援」に関する回答で、「静かな退職者群」と全体との間で最も大きな乖離が見られたのは、「新たな挑戦を後押ししてくれるサポート」の項目でした。このサポートを得られていると回答した割合は、全体では15.2%であったのに対し、「静かな退職者群」ではわずか2.8%に留まっています。この数値は、「静かな退職者」がキャリア開発やスキルアップの機会、そしてそれを後押しするサポートを極めて少ないと感じていることを示唆しています。

「静かな退職」の概念を象徴する、仕事に対する無気力な姿勢を示すビジネスパーソンのイメージ。「静かな退職」の概念を象徴する、仕事に対する無気力な姿勢を示すビジネスパーソンのイメージ。

一方で、最も乖離が小さかったのは「仕事やキャリアに関して気づきを与えてくれる助言」に関する回答でした。この助言を得られていると回答した割合は、全体で24.9%に対し、「静かな退職者群」では10.7%という結果です。このことから、一般的なアドバイスや気づきの提供よりも、具体的な挑戦への後押しこそが「静かな退職者」のワークエンゲージメントを高める上で決定的に重要であることが読み取れます。

専門家が語る、企業文化とマネジメントの再構築

調査を担当したインディードリクルートパートナーズの高田悠矢特任研究員は、「この回答結果の分析は、ミドルマネジメント教育や企業文化の醸成を考える際に参考になります」と語っています。

高田氏は、「『新たな挑戦を後押ししてくれるサポート』が充実している組織というのは、視点を変えれば従業員に対して一定程度、積極的に新たな挑戦を求めている組織であるとも言えます」と指摘します。上司や同僚からの「気づきを与えてくれる助言」は確かに多くの従業員にとって非常に貴重なものであり、その価値は疑いようがありません。しかし、企業が「静かな退職」という現代的な課題に効果的に向き合うためには、そのアプローチを再考する必要があるのかもしれません。

具体的には、「新たな挑戦を後押し」するような支援が組織的な仕組みや文化として確立され、従業員が積極的に挑戦できる環境を整える方が、より有益である可能性が高いと高田氏は結んでいます。これは、単なる個別の対処ではなく、組織全体のリーダーシップと人事戦略を見直すことで、持続可能な人材定着と従業員満足度向上を実現する道筋を示しています。

結論

インディードリクルートパートナーズの最新調査は、「静かな退職」が広がる現代の労働市場において、企業が従業員のエンゲージメントを再構築するための具体的な方向性を示しています。従来の報酬や一般的なキャリアアドバイスに重点を置くアプローチだけでなく、従業員に学びや成長の機会を提供し、新たな挑戦を積極的に支援する文化と仕組みを構築することが、最も効果的な解決策となるでしょう。これは、単に個々の従業員を「引き止める」だけでなく、組織全体の活力を高め、イノベーションを促進する上でも不可欠な要素となります。企業は、この洞察を人事戦略に取り入れ、より魅力的な職場環境を創造することで、「静かな退職」という課題を乗り越え、持続的な成長を実現できるはずです。

参考文献