近年、日本の労働市場において、高齢労働者の存在感が増している。特に事務職の派遣分野では、60歳以上のシニア派遣社員が急増しており、彼らが現場で「重宝される」背景には、単なるスキルだけでなく、特定の「配慮」が重要視されているという。本記事では、大手派遣会社の社員への取材に基づき、この現象の実態と、シニア人材が求められる理由について深掘りする。
事務職派遣におけるシニア層の台頭
かつて20〜30代の女性が中心だった事務職の派遣業界で、今、大きな変化が起きている。大手派遣会社の20代社員Kさんによると、彼女が担当する派遣社員の平均年齢は現在45歳であり、特に60歳以上のシニア派遣社員がその平均年齢を押し上げているという。6年前には担当者に一人もいなかった60代の派遣社員が、ここ数年で急速に増えたとKさんは証言する。
Kさんの会社には約130万人の登録者がおり、Kさん自身は約100名の派遣社員を担当している。そのうち約20名が60〜65歳のシニア層で、男女比は3対7と女性が多い。これらのシニア派遣社員は、上場企業や官公庁といった多様な職場で、事務や経理などの業務に従事している。
オフィスで働くシニアワーカーのイメージ
柔軟な働き方がシニアのニーズと合致
シニア派遣社員が急増している背景には、派遣という働き方が彼らのライフスタイルやニーズと合致している点が大きいとKさんは指摘する。コロナ禍以前はフルタイム勤務が主流だった派遣業務だが、コロナ後は週3〜4日勤務やリモートワークを許容する企業が増加した。
シニア世代は、親の介護、孫の世話、自身の持病など、様々な個人的な事情を抱えているケースが多い。そのため、こうした柔軟な働き方を求めるシニアが派遣業界に留まったり、新たに流入したりしていると考えられる。これは、単に収入を得るためだけでなく、自身の状況に合わせたワークライフバランスを重視する傾向の表れとも言えるだろう。
また、ハローワークの有効求人倍率では事務職の求人が減少傾向にあるように見えるが、派遣会社への事務職の求人数は減っていないという。これは、企業が正社員の事務職を減らし、派遣社員へと切り替える動きが増えている可能性を示唆している。
現場で重宝されるシニア人材の条件
ジャーナリストの若月澪子氏の取材によると、「年齢を重ねたシニアはスキルを売りにしなければならないが、スキルと同じくらい重要な配慮がある」と述べられている。具体的な内容については記事中で詳細に語られていないものの、この「配慮」とは、柔軟な働き方への適応力、長年の経験から培われた業務遂行能力、そして変化する職場環境への理解や協調性などが含まれると推測される。
労働現場では、即戦力となるスキルはもちろんのこと、円滑な人間関係を築き、チームの一員として貢献できる姿勢が不可欠だ。特に様々な事情を抱えながらも、自身の経験を活かして柔軟に対応できるシニアは、企業にとって非常に貴重な存在となっている。
結論
事務職の派遣市場におけるシニア労働者の増加は、社会全体の高齢化、労働力不足、そして働き方の多様化が複合的に影響し合う、現代日本における重要なトレンドである。シニア層が持つ豊富な経験と、柔軟な働き方への適応力が組み合わさることで、彼らは労働現場で不可欠な存在となりつつある。企業側も、シニアのニーズに応える働き方を提供することで、優秀な人材を確保し、組織の活性化につなげることが期待される。
参考文献
- 若月澪子『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)





