第1回【「102歳の母親」を殺害した被告人に“執行猶予”がついた理由…“殺人犯”が刑務所に収監されない“温情判決”のウラにあった「知られざる法的手続き」】からの続き──。昨年7月22日、無職・小峰陽子被告(71)は国立市の自宅で当時102歳だった母親の首をビニールひもで締めて殺害した。動機は長年にわたる“介護疲れ”だったという。(全2回の第2回)
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小峰被告の殺人罪を巡る裁判員裁判は東京地裁立川支部で開かれていたが、11月17日に「懲役3年、保護観察付き執行猶予5年」の判決が下った。担当記者が言う。
「殺人事件の裁判で執行猶予付きの判決が下ったことは異例と言わざるを得ません。判決は小峰被告が12年間、たった一人で母親の介護を行っており、肉体も精神も疲弊していたことを重視しました。事件直前には頻繁にトイレの介助を求められ、心理的に追い詰められていたことも考慮。『犯行は悪質』と糾弾しながらも『介護疲れによる事案とみるべき』と指摘し、執行猶予が付くという温情判決を下したのです」
一方、検察側は「介護疲れの事案とは一線を画する」として、懲役8年を求刑していた。元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は、この「懲役8年」という求刑に注目する。
「殺人罪の最低刑は『懲役(拘禁刑)5年以上』ですので、執行猶予の条件である『懲役3年以下』を満たしません。今回の判決では、情状酌量すべきものがあるとして『酌量減軽』を行い、懲役5年を懲役3年に減刑して執行猶予の条件を満たしました。拘禁刑の場合、酌量減軽で半分の刑期にすることが可能です。つまり懲役5年なら懲役2年半まで減刑することができるのですが、ここで注目したいのは検察側が懲役8年を求刑した点です。8年だと仮に半分の酌量減軽が認められても懲役4年で執行猶予の条件を満たせません。つまり検察側は『執行猶予を付けられる殺人事件ではありませんよ』というメッセージを裁判所に送った可能性があると思います」(同・若狭氏)






