アメリカの「第ゼロ優先事項」:緊迫するベネズエラ情勢とモンロー主義の再燃

カリブ海を挟んでアメリカと向かい合う石油産油国ベネズエラで、その情勢が緊迫の度合いを増しています。多くの日本人には馴染みの薄いこの問題ですが、ドナルド・トランプ政権の対外政策における「第ゼロ」の優先事項、すなわち「モンロー主義」が深く関係しており、日本もその動向を注視すべき局面にあります。

トランプ政権の明確な対外政策優先順位

トランプ政権の対外政策には、明確な優先順位が設定されています。第一に挙げられるのは中国です。世界の覇権国家であるアメリカにとって、台頭する挑戦者である中国の存在は看過できない問題であり、共和・民主両党の超党派的な合意として、中国の台頭を抑え込むことが最重要視されています。

第二に重要なのがウクライナ情勢です。米中に次ぐ第三の大国であるロシアが深く関与するウクライナ紛争は、アメリカの安全保障において極めて重要な政策課題と位置づけられています。

第三の優先事項は中東です。アメリカ自体はメキシコ湾の石油やシェールガスにより、中東からの石油供給がなくても生存可能だと考えています。しかし、日本を含むアメリカの同盟国にとって中東の石油は生命線であり、自由主義陣営の盟主として同盟国を守るため、そして自らの「親分」としての地位を保つためにも、アメリカはこの地域への関与を不可欠と見なしています。現在のガザ紛争は直接的な石油産出地とは関係ありませんが、中東地域の紛争は予期せぬ場所へ飛び火する危険性を常に孕んでいます。実際に、ガザで進攻を続けるイスラエルとイスラムの盟主を自認するイランとの間で紛争が勃発し、アメリカが「十二日間戦争」で収拾したことは記憶に新しいでしょう。

優先順位「第ゼロ」としてのモンロー主義

トランプ政権が先日、アゼルバイジャンとアルメニア間の長年の紛争を仲介したことは、これら優先順位に基づく行動の一環です。これは、中国との対峙に集中するため、後顧の憂いを断つという狙いがありました。トランプ大統領自身が両国の国名を間違えるほどの状況でも、政権の優秀なスタッフはロシアの勢力圏であるこの地域にくさびを打ち込むことで、戦略的な成果を上げています。

しかし、これらの優先順位に先行する「第ゼロ」と呼べる問題が存在します。それが「モンロー主義」の範囲です。アメリカ政府は、共和・民主を問わず、南北アメリカ大陸を自らの「庭」と見なしています。これは、第5代ジェームズ・モンロー大統領が「南北アメリカ大陸にヨーロッパは干渉するな」と宣言したことに端を発します。アメリカ合衆国が大国となるにつれて、モンロー主義は実体化し、中南米諸国に対してまるで自国の一部であるかのように振る舞うようになりました。ロシアが旧ソ連から独立した国々を今でも自国のように扱うのと同様に、アメリカは一度も自国の一部になったことのない中南米諸国を自国のように扱うのです。

カリブ海を挟みアメリカと向かい合うベネズエラ。経済・政治危機に直面カリブ海を挟みアメリカと向かい合うベネズエラ。経済・政治危機に直面

南米北部に位置するベネズエラは、まさにこのモンロー主義の対象となる国の一つです。1999年に反米派のチャベス政権が発足し、2013年以降はマドゥロ大統領がその路線を継承。現在、深刻な経済・政治危機に直面しており、アメリカの外交政策における「第ゼロ」の優先事項として、その動向が強く注視されています。日本は直接的な介入はできませんが、アメリカの優先順位がどのように揺れ動くか、今後もその展開を注意深く見守る必要があります。