日本全国でインフルエンザがかつてない規模で猛威を振るい、多くの医療機関が「限界に近い」状況に直面しています。新型コロナウイルス感染症も引き続き確認される中、複数の感染症が同時に流行する「パニック」状態が懸念されており、医療現場は多様な症状の患者対応に追われています。いとう王子神谷内科外科クリニック(東京都)の伊藤博道院長は、現在の状況を「開業以来、過去最多」「例年の2倍という異常事態」と語り、その深刻さを訴えています。
インフルエンザ、過去最多の患者数と多様な症状
今年のインフルエンザ流行は、例年より約2ヶ月早く始まり、その規模は昨シーズンを大きく上回っています。厚生労働省の定点調査によると、11月21日時点の患者数は14万5526人に達し、昨年同時期の約16倍という驚異的な増加を示しています。
伊藤院長のクリニックでは、11月中旬の休日診療でインフルエンザ検査を受けた37人中26人が陽性となり、陽性率は7割を超える水準でした。今年の主流は香港A型で、40度を超える高熱を出す患者が多い一方で、高齢者の中には熱があまり出ないケースもあり、インフルエンザと気づかないまま咳や呼吸器症状を悪化させる危険性も指摘されています。
さらに厄介なのは、インフルエンザらしからぬ多様な症状が見られる点です。吐き気、腹痛、下痢といった胃腸症状を訴える患者や、中耳炎のように「耳が痛い」と受診した患者がインフルエンザと診断されることもあり、伊藤院長は「これだけ感染が広がると、陽性者の症状も、もはや“何でもあり”の状態」と語ります。
体温計を持つ手のイメージ:日本で拡大するインフルエンザと多様な感染症の流行
医療現場は「限界寸前」:トリアージによる対応
現在の医療現場は、すでに限界に近い状況にあります。特に週末の診療では、休日診療を行っているクリニックが少ないため、午前中に受付をしても診察が夕方になるほどの混雑ぶりです。しかし、40度を超える高熱の患者を長時間待たせることは、意識障害など命に関わる危険性があるため、医療機関では緊急性の高い患者を優先的に診察する「トリアージ」を実施し、対応に追われています。
インフルエンザだけではない「感染症パニック」
問題はインフルエンザにとどまりません。伊藤院長によると、クリニックでは今も新型コロナウイルス感染症の陽性者が2日に1度は出ており、インフルエンザだと思って受診した患者がコロナだったり、インフルエンザとコロナの「ダブル感染」が確認されるケースもあります。
その他にも、マイコプラズマ肺炎の患者が見られるほか、季節外れの腸管出血性大腸菌(O-157)やカンピロバクター腸炎の患者も報告されており、まさに「感染症パニック」と呼べる状況です。多重感染のリスクと同時に、症状が重なる感染症も多いため、見分けがつきにくい場合には、適切な処置が遅れる可能性も懸念されています。
9種類の感染症が懸念される「複合流行」
伊藤院長が今後の感染拡大を特に懸念する感染症は、なんと9種類にも上ります。これらは大きく呼吸器系と消化器系に分けられます。
呼吸器系感染症:
- インフルエンザ
- 新型コロナウイルス感染症
- RSウイルス
- マイコプラズマ肺炎
- 百日咳
消化器系感染症:
- 腸管出血性大腸菌(O-157)
- カンピロバクター腸炎
- ノロウイルス
特にマイコプラズマ肺炎に関しては、「耐性菌」が増加しており、第一選択薬のマクロライド系抗生物質が半数の患者に効かない状況が問題視されています。次に用いられるミノマイシンは妊婦や8歳未満の子どもには使えないため、治療が難航し、長引くケースが目立っています。
また、しつこい咳が長引く百日咳の感染者数も過去最多を更新しており、感染すると48時間以内に命を落とす危険性がある「劇症型溶連菌」の感染者数も、昨年過去最多を更新したにもかかわらず、今年も増加傾向にあります。
日本は現在、単一のウイルス流行ではなく、複数の感染症が複合的に、かつ異常な規模で同時に流行するという極めて困難な状況に直面しています。医療現場の逼迫は深刻であり、国民一人ひとりが感染予防対策を徹底し、症状がある場合は速やかに医療機関に相談することが、これ以上の感染拡大と重症化を防ぐ上で不可欠です。
参照元: Source link





