現在、クマによる被害は「自然災害」と言っても過言ではない状況です。環境省の発表によると、今年度のクマによる全国の死亡者数は11月5日時点で13人に達し、過去最多だった2023年度の6人を倍以上も上回っています。この事態を受け、首相官邸ではクマ被害に関する閣僚会議が開催されるなど、その深刻さが増しています。
このような中、岩手県北上市の山間にある温泉旅館で働く笹崎勝巳さん(享年60)がクマの犠牲となったニュースは、日本中に大きな衝撃を与えました。
岩手県北上市での痛ましい事件の詳細
全国紙の社会部記者によると、笹崎さんは10月16日午前、露天風呂の清掃に向かったまま行方不明となりました。現場付近にはクマのものとみられる体毛や血痕が残されており、翌17日午前、露天風呂から約50メートル離れた雑木林で遺体が発見されました。現場近くにいたツキノワグマ1頭は、その場で猟友会によって駆除されました。
遺体は特に頭部と腕部が激しく損傷しており、駆除されたクマの胃の中からは、被害者のものと思われる人間の肉片や髪の毛などが発見されたと報じられています。
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳氏の肖像とクマのイメージ写真
プロレス界での功績と家族との新たな生活
笹崎さんには、温泉旅館の従業員という顔のほかに、もう一つの顔がありました。それは「プロレスのレフェリー」です。1991年にデビューして以来、数々の団体で試合を裁き、「プロレスリングZERO1」では運営会社の代表取締役社長まで務めた実績を持つ人物でした。
プロレスのレフェリーという仕事は全国を飛び回る巡業が多いため、笹崎さんは家族との時間を増やすため、今年の春に一家で岩手県北上市に移住し、温泉旅館で働くことを決意したといいます。
笹崎さんが勤務していた「瀬美温泉」の代表取締役である岩本和裕氏は、笹崎さんとZERO1時代からの旧知の仲であり、一時的に運営会社の代表を引き継いだ経緯がありました。
温泉施設の対応と安全対策の強化
事故後、瀬美温泉は一時休館を余儀なくされました。10月下旬の取材に対し、岩本氏は「安全対策が整うまでは休館中」としながらも、「家族を思ってここに来た笹崎のためにも、なんとか再開したい」と胸中を吐露していました。
痛ましい事故から約1か月が経過した11月中旬、岩本氏に改めて話を聞くと、先週から宿泊の受付を再開し、日帰り温泉なども11月17日から営業を再開したことを明かしました。安全面を考慮し、露天風呂は閉鎖され、再開の予定はないとのこと。温泉は内風呂のみの営業となります。
施設周辺には監視カメラが設置され、クマの侵入がないかモニターで常時監視できる体制が整えられています。また、巨大なクマが壊せないような強固な柵に補強するなど、安全対策を順次進めている状況です。岩本氏は、「笹崎も『お手間をかけさせてしまってすみません』と言っているのではないでしょうか」と故人を偲びました。
多くの関係者が集った葬儀
10月27日、北上市内で笹崎さんの葬儀が執り行われました。葬儀には、ザ・グレート・サスケ選手、田中将斗選手、伊藤薫選手、高橋奈七永選手、パンチ田原レフェリーなど、多くの有名プロレスラーや関係者が参列し、笹崎さんの死を悼みました。
岩本氏は、「『瀬美温泉』の社葬として執り行いました。ゆかりのある仲間が参列し、奥さんやお子さんも気丈に対応されていました。(ご遺族は)もうここを離れています」と語りました。
リング上で見せた笹崎さんの凛々しい佇まいは、プロレスファンたちの記憶に今後も残り続けることでしょう。





