先の参議院選挙では「減税」を強く否定した与党が大敗を喫し、一方で減税を主張する野党勢力が議席数を伸ばす結果となりました。これは、国民が政府の増税方針に対し明確な「ノー」という民意を示した形です。しかし、早稲田大学招聘研究員で国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は、「それでも政府は増税を続けるだろう」と指摘します。ガソリン減税に代わる新たな税制の検討報道も相次ぐ中、なぜ日本で増税が続くのか、その秘密は国の予算編成プロセスに隠されています。本記事では、渡瀬氏の見解を基に、日本の税制構造と増税が継続する根本的な理由を深掘りします。
国民の「減税」要求と政府の現実
直近の参議院選挙の結果は、減税を求める国民の声が非常に強いことを浮き彫りにしました。減税に消極的な与党が敗北し、減税を前面に押し出した野党が躍進したことは、国民が現在の税負担に不満を抱き、政策転換を求めている明確なメッセージと言えるでしょう。しかし、この民意とは裏腹に、渡瀬裕哉氏は日本の増税が今後も続くとの見方を示しています。一見すると矛盾しているように思えるこの状況は、単なる政治的駆け引きだけでなく、日本特有の税制と予算編成の構造に深く根ざしているのです。
予算編成:政治の「スケジュール」が支配する増税の仕組み
なぜ国民の減税要求があるにもかかわらず、増税の動きが止まらないのでしょうか。その核心は、年間の予算編成プロセス、すなわち政治における「スケジュール」にあります。渡瀬氏は、「政治の本質はスケジュールである。『何を、いつ、だれが、どのように』物事を決定していくのか、これこそが政治の全てだ」と強調します。日本の予算や税制が決定される一連のスケジュールを理解すれば、今後も増税が続くか否かの予測が可能になります。そして、もしこの現状のスケジュールに根本的な変化がなければ、日本の政治において増税は今後も決定され続ける可能性が高いと言えるでしょう。
日本の予算決定プロセスとその裏側
では、日本の予算や税制は具体的にどのようなスケジュールで決定されていくのでしょうか。一般的なプロセスは以下の通りです。
- 6月: 内閣府が「骨太の方針」を公表し、予算編成全体の大枠を示します。
- 7月: 財務省が各省庁に対する概算要求基準を提示します。
- 8月末: 各省庁からの概算要求が財務省によって取りまとめられます。
- 9月~12月: 財務省による詳細な査定が行われ、与党国会議員との調整が進められます。
- 12月: 政府予算案が正式に決定されます。
- 翌年1月~3月: 通常国会に提出された予算案が審議を経て成立します。
この流れの中で、「骨太の方針」は予算編成全体の方向性を決定づける重要な指針となります。財務省は、この方針、特に内閣総理大臣の意向を反映した特別枠などに配慮しながら、各省からの予算要求を精査し、本予算の内容を統制する役割を担っています。つまり、一部の例外的な政権を除けば、財務省がこのスケジュールに沿って本予算の内容を実質的に牛耳っているのが現状なのです。
日本の増税議論における財務省の役割と予算編成プロセスを示すイメージ
補正予算の「闇」:利権と無駄の温床
本予算とは別に、日本の予算編成には「補正予算」という枠組みも存在します。これは、本予算に含めることが難しかった、あるいは緊急性の高いとされる予算措置を柔軟に行うためのものです。しかし、渡瀬氏によると、この補正予算は「本来は存在しなくても良い予算であり、利権向けの無駄の塊などが補正予算には凝縮されている」と指摘しています。本予算が国会での厳格な審議を経て成立するのに対し、補正予算は比較的緩やかな形で決定される傾向があるため、本来の目的から外れた利権構造や無駄な支出の温床となりやすい側面があるのです。通常国会で予算が成立する際も、与野党間で審議日程を巡る「日程闘争」が行われるものの、その流れの中で粛々と予算は成立していきます。
結論
国民の明確な減税要求にもかかわらず、日本で増税が継続する背景には、年間の厳格な予算編成プロセスと、その中で大きな権限を持つ財務省の存在があります。政治の本質が「スケジュール」にあるという渡瀬氏の指摘は、この複雑な状況を理解する上で非常に重要です。もし、この予算編成のスケジュールや関与する組織の役割に根本的な変革がなければ、たとえ国民が減税を強く望んでも、政府の増税路線を阻止することは困難でしょう。今後の日本の税制の行方を占う上で、この予算編成プロセスの透明化と国民の監視がこれまで以上に求められます。