日本の食品大手ミツカンが、公式X(旧Twitter)への投稿をきっかけに広範な炎上騒動に巻き込まれました。一度は謝罪によって収束に向かうかに見えたこの事態は、皮肉にもその謝罪自体が新たな批判の的となり、ネットユーザーからは「往復ビンタ」と形容される状況を招いています。本記事では、このミツカンのX投稿炎上騒動の経緯と背景にある社会的な論争、そしてそこから見えてくる現代の企業コミュニケーションの課題について深く掘り下げていきます。
冷やし中華投稿が引き起こした最初の「炎上」
騒動の発端は2023年8月13日、ミツカンの公式Xアカウントによる投稿でした。同社は「冷やし中華なんてこれだけでも充分美味しいです」という一文と共に、中華麺に自社の「冷やし中華のつゆ」だけをかけたシンプルな写真を掲載しました。この投稿に対し、一部のSNSユーザーから「主婦の努力を嘲笑している」「女性蔑視だ」といった強い批判が噴出し、最初の炎上へと発展しました。多くの人々が「なぜこれが問題なのか」と首を傾げるほど、一見すると無害に見える投稿でした。
ミツカンによるXの投稿が炎上し、大きな社会問題となった様子
ネット上の「料理の負担」論争が背景に
このミツカンのX投稿炎上がここまで大きな波紋を呼んだ背景には、当時SNS上で加熱していた「料理の負担」を巡る論争がありました。特に、「今日の晩御飯は何がいい?」という問いに対し「簡単にそうめんでいいよ」などと答える行為が、酷暑の中で湯を沸かし、麺を茹で、冷水で締めるといった調理の労力を軽視しているのではないか、と主張する声が多数上がっていました。このような文脈の中、ミツカンが「麺を茹でてつゆをかけるだけ」というレシピを提案したことは、意図せずして「調理は重労働」と訴える人々の心情を逆撫でする形となってしまったのです。結果として「ミツカン製品はもう買わない」「家中のミツカン製品を捨てる」といった過激な不買運動の呼びかけにまで繋がりました。
謝罪がさらなる「燃料」に:収束しない炎上
事態の深刻さを鑑み、ミツカンは8月15日に問題の投稿を削除。「不快な思いをさせてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます」とする謝罪文を公式Xに掲載しました。通常、企業が迅速に謝罪することで炎上は鎮静化に向かうことが多いのですが、ミツカンのケースではそうはなりませんでした。今度は「理不尽な言いがかりを真に受けて、いちいち謝罪するな」という批判が噴出し、謝罪が新たな炎上の「燃料」となってしまったのです。この「謝罪炎上」は、これまで騒動を知らなかった層にまでミツカンの問題が広く伝わるきっかけとなり、事態はさらに複雑化しました。結果として、ミツカンは一方的な批判と、その批判に対する謝罪、さらにその謝罪への批判という、まさに「往復ビンタ」のような状況に陥ったのです。
結論
ミツカンのX投稿炎上騒動は、企業のソーシャルメディア活用における難しさと、現代社会の複雑な世論を浮き彫りにしました。意図しないメッセージが特定の層の感情を逆撫でする可能性や、迅速な謝罪が必ずしも事態を収束させるとは限らないという教訓を企業に突きつけています。特に、生活に密着した食品企業においては、消費者の多様な価値観や社会的な背景を深く理解し、より慎重なコミュニケーション戦略を練ることが不可欠であることを示唆しています。
参考文献
- ミツカンのXの投稿が大騒動に (Yahoo!ニュース, 2023年8月27日)