ウクライナ東部における戦況は、依然として緊迫した状況が続いています。特に、産業の要衝であるドニプロペトロウシク州へのロシア軍の侵攻は、新たな局面を迎えています。ロシア国防省は、自国軍がザポリスケ村に入ったとする画像を公開しましたが、ウクライナ側はこれを否定し、同村が引き続き自国の管理下にあると主張しています。この地域での攻防は、ウクライナの士気だけでなく、国際社会の外交努力にも大きな影響を与えかねないため、世界がその動向を注視しています。
ドニプロペトロウシク州における攻防の最新状況
ウクライナ軍は、工業が盛んな東部ドニプロペトロウシク州にロシア軍が侵攻し、足場を築こうとしていることを明らかにしました。ドニプロ作戦戦略グループ部隊のヴィクトル・トレフボフ氏は、BBCに対し「ドニプロペトロウシク州でのこうした大規模攻撃は初めてだ」と説明し、ロシア軍の進撃を食い止めたと主張しています。
ロシア側は今夏、同州に進軍したと主張しており、特に6月初めにはドニプロペトロウシク州で攻勢を始めたと発表していました。ロシア軍は、現在一部を占領しているウクライナ東部のドネツク州から、さらに西側への進撃を狙っていますが、ウクライナ側の最新報告は、ロシア軍が州境をほとんど突破できていないことを示しています。
ロシア国防省が公開した、ウクライナ・ドニプロペトロウシク州ザポリスケ村に展開するロシア軍の様子。ウクライナは同村の支配を否定。
戦況を分析し地図で示している団体「ディープステート」は26日、ドニプロペトロウシク州のザポリスケとノヴォヘオルヒーウカの二つの村をロシアが占領したと報告しました。しかし、ウクライナ軍の参謀本部はこれを明確に否定し、同軍がザポリスケを「管理し続けている」とし、ノヴォヘオルヒーウカ村がある地域でも「活発な戦闘行為が続いている」との声明を発表しました。ロシアは、ドネツク州などウクライナ東部4州の制圧を主張していますが、ドニプロペトロウシク州については言及しておらず、現在のところ領有を主張するに至っていません。しかし、州都ドニプロをはじめとする同州の主要都市への攻撃は継続的に実施しています。
戦略的要衝の重要性と士気への影響
現在の戦争が始まる前、ドニプロペトロウシク州は人口300万人を超え、ドネツク州とルハンスク州で構成されるドンバス地方に次ぐ、ウクライナ第2の重工業地帯でした。この地域の支配権は、ウクライナの経済基盤と抗戦能力に直結するため、その攻防は極めて戦略的な意味を持っています。仮にロシア軍がドニプロペトロウシク州深部へ進攻すれば、ウクライナ側の士気に大きな影響をおよぼすことは避けられないでしょう。
ロシア軍はウクライナでの領土占領が思うように進まず、多くの死傷者を出していますが、ドネツク州では最近、局地的に成果を上げているとの報道もあります。このような状況下でのドニプロペトロウシク州への侵攻は、ロシアがウクライナ東部全域の掌握を視野に入れていることを示唆しています。
停滞する国際外交とロシアの終戦条件
現在のウクライナ戦争をめぐっては、アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が今月中旬に米アラスカで会談を行いましたが、戦争終結に向けたアメリカ主導の外交は停滞気味となっています。報道によると、プーチン氏はトランプ氏に対し、ウクライナがドネツク州を引き渡せば戦争を終結させる用意があると伝えたとされています。これは、ロシアが一定の領土的譲歩を終戦の条件としていることを示しており、今後の外交交渉の難航を予感させます。
ウクライナ政府、18~22歳男性の国外渡航を許可
このような緊迫した戦況が続く中、ウクライナ政府は国内政策においても重要な変更を発表しました。これまで法律で18~60歳の男性の出国には許可が必要でしたが、新たに18~22歳の男性の国外渡航を認めるとしました。
ユリア・スヴィリデンコ首相は、現在国外に滞在している人もこの変更の対象となり、ウクライナに戻り、再び出国することが可能になると説明しました。ウクライナでは、戦争開始以降、息子を18歳になる前に外国に送り出す親が増えており、スヴィリデンコ首相は「ウクライナ国民に、ウクライナとのつながりをできるだけ保ってほしい」と述べ、この措置が国民との絆を維持するためのものであることを示唆しました。18~22歳の男性は徴兵の対象ではなく、ウクライナの徴兵の最低年齢は25歳で、昨年引き下げられています。現在、推定560万人のウクライナ人男性が国外で暮らしているとされています。
結論
ウクライナにおける戦況は、ドニプロペトロウシク州という戦略的要衝を巡る攻防が激化し、予測困難な状況が続いています。ロシアとウクライナ双方の主張が食い違う中、国際社会の外交努力も停滞しており、停戦への道のりは依然として遠いと言わざるを得ません。一方で、ウクライナ政府が若年層の国外渡航を許可するなど、国民の生活と国際社会とのつながりを維持するための政策を打ち出していることも注目すべき点です。今後も、ドニプロペトロウシク州を含むウクライナ東部の戦況、そして米露を含む国際社会の外交動向が、この紛争の行方を左右する主要因となるでしょう。
参考文献
- BBC News (英語記事 Ukraine admits Russia has entered key region of Dnipropetrovsk)