神戸市のマンションで片山恵さん(24)が殺害された事件は、新たな展開を見せています。警察は27日、この事件に関与したとして逮捕された谷本将志容疑者(35)が住む社員寮を家宅捜索しました。この捜査により、谷本容疑者の日常や過去の行動、そして事件の背景にある手口が次々と明らかになり、社会に大きな衝撃と不安を与えています。特に、オートロック付きマンションへの「共連れ」による侵入が繰り返されていた可能性が指摘されており、防犯意識の重要性が改めて問われています。
谷本容疑者の部屋から見えた“生活感”と謎の位牌
家宅捜索で明らかになった谷本容疑者の部屋は、四畳半ほどの広さで、ベッドがその半分を占めていました。家電は冷蔵庫と電子レンジのみと簡素で、干されたままの洗濯物や丸められた掛け布団、飲みかけのペットボトルやピザの空き箱など、生活感がそのまま残る雑然とした様子でした。しかし、その中でひときわ目を引いたのは、枕元に置かれた2つの位牌でした。一方、谷本容疑者は片山さんについて「全く知らない人」と供述しており、被害者との面識を否定しています。面識のない女性を狙った事件は過去にもあったとされ、その関連性が注目されています。
神戸女性刺殺事件の現場付近を捜査する警察官の様子
繰り返される手口:「共連れ」とストーカー規制法違反の過去
谷本容疑者には、過去にも同様の手口で面識のない女性を狙ったとされる事件で有罪判決を受けていたことが判明しました。2022年にはストーカー規制法違反などで執行猶予付きの有罪判決が言い渡され、さらに2020年にも同じ違反などで罰金の略式命令を受けていました。これらのケースに共通していたのは、被害者がいずれも見ず知らずの女性であり、そのあとをつけ、オートロックを突破する「共連れ」という手口が用いられていた点です。今回の神戸女性刺殺事件においても、谷本容疑者はマンションのオートロックを「共連れ」で突破して侵入したとみられており、その常習性が浮き彫りになっています。
事件前からの周到な準備と逃走経路
谷本容疑者の行動は、事件前から周到に計画されていた可能性を示唆しています。夏休みを利用して事件3日前の8月17日から神戸を訪れており、到着当日には別の女性のあとをつけ、マンションのオートロックをすり抜けて侵入を試みていたことが捜査関係者への取材で明らかになっています。この事実は、谷本容疑者逮捕後に女性からの相談で発覚しました。翌日には、片山さんの会社近くの防犯カメラに容疑者とみられる男の姿が映っており、玄関に目線をやる様子も確認されています。この時点で、すでに片山さんを犯行の標的として定めていた可能性も指摘されています。
事件後の逃走経路もまた、計画的かつ冷静なものでした。谷本容疑者は徒歩で北へ逃走した後、すぐにタクシーを使い宿泊先のホテルへ向かいました。スーツケースを回収すると、同日午後8時ごろには別のタクシーで新神戸駅へ移動し、そのまま新幹線に乗り東京へ戻ったとみられています。そして、逃走から2日後の8月22日、奥多摩町の路上で身柄を確保されました。一連の行動からは、慌てた様子は見受けられず、計画性の高さがうかがえます。
悲しみと不安が広がる現場:市民の声
事件から1週間が経過した今も、現場には献花に訪れる人が絶えません。娘が片山さんと同い年だという女性は、「まだまだ先が長いのに、他人事じゃない。かわいそう。こんなことになるなら、一人暮らしさせなかったらよかったと。親御さんがこれから先、一生思うのかと思ったら、他人事じゃない。つらい」と、深い悲しみと共感を語りました。また、片山さんと同年代だという別の女性も、「いろいろ怖かったと思うので、落ち着いて安らかに、眠っていただければと手を合わせた。正直、びっくりして他人事ではない。本当に怖い」と、事件への恐怖と社会の治安に対する不安を吐露しました。
この神戸女性刺殺事件は、オートロックという防犯設備があるにもかかわらず、その盲点を突いた「共連れ」という手口が繰り返されていた事実を浮き彫りにしました。谷本容疑者の過去の違反や周到な計画性、そして被害者との面識のなさから、特定のターゲットだけでなく、無差別に女性を狙っていた可能性も指摘されています。社会全体として、防犯意識の向上と、こうした巧妙な手口に対する対策が喫緊の課題となっています。