となりのトトロ、塚森に潜む未確認生物の謎:絵コンテにも記されない数秒の存在

スタジオジブリが手掛けた宮崎駿監督の名作『となりのトトロ』は、1950年代の日本の農村を舞台に、現実と地続きのファンタジーを描き出し、世代を超えて多くの人々に愛され続けています。大中小のトトロたち、愛らしいススワタリ(まっくろくろすけ)、そして空を駆け巡るネコバスなど、物語を彩る不思議な生物たちは誰もが知るところでしょう。しかし、この作品の中には、ほとんど語られることのない、わずか数秒しか登場しない「謎の生物」が潜んでいることをご存じでしょうか。その存在は、作品の奥深さと、未だ解明されていない秘密を私たちに示唆しています。

『となりのトトロ』に登場する不思議な住人たち

『となりのトトロ』は、日本の豊かな自然と、その中に息づく神秘的な存在を繊細に描いています。主人公のサツキとメイが出会う大トトロ、中トトロ、小トトロといった「トトロ」たちは、森の主であり、子供たちにしか見えない不思議な生き物です。また、古い家に住み着く小さな黒い塊「ススワタリ」や、子供たちの夢を乗せて夜空を翔ける「ネコバス」など、そのどれもが個性的で忘れがたい魅力を放っています。これらの生物たちは、作品の世界観を形成する上で不可欠な要素であり、ファンタジーと現実の境界線を曖昧にする役割を果たしています。

森の中で佇む大トトロと中トトロ。『となりのトトロ』に登場する謎生物への関心を誘う一枚森の中で佇む大トトロと中トトロ。『となりのトトロ』に登場する謎生物への関心を誘う一枚

メイを探すサツキが見た、塚森の「謎の生物」

この謎の生物が登場するのは、映画の終盤、入院中の母を案じて一人で病院へと向かい行方不明になった妹メイを探すサツキが、大トトロに助けを求め、塚森へと足を踏み入れる場面です。サツキがトンネルの中を進むと、壁に張り付いていたススワタリたちが動き出し、目を開けて彼女を見送る様子が描かれます。

その直後のシーンで、画面の右側から現れるのが例の「謎の生物」たちです。それは、キノコのような、あるいは貝やフジツボのような、青白い姿をした3匹の生き物でした。彼らはゆっくりと、しかし確実に動きながらトンネルの上部へと消えていきます。その出演時間はわずか2秒ほど。あまりに短いため、多くの観客がその存在に気づかずに見過ごしてしまうことも珍しくありません。

インターネット上の反応と絵コンテの検証

この短い登場シーンにもかかわらず、ネット上では一部の熱心なファンによる考察やつぶやきが見られますが、その数は決して多くありません。多くの鑑賞者にとって、この生物は意識されないまま物語が進む、文字通りの「裏設定」のような存在と言えるでしょう。

この謎を解明する手がかりを探すため、公式資料である『となりのトトロ スタジオジブリ絵コンテ全集<3>』を紐解いてみました。この絵コンテ集には、本編では語られない様々な裏設定や詳細が記載されており、例えばメイの「あなたトトロっていうのね!」という問いに対し、トトロが「ヴォオオ」と応じた際に「わかりません」と返していたことなども記されています。

しかし、肝心の謎生物が登場する絵コンテの「857番」のカットを確認しても、例のキノコのような生き物に関する記述は一切ありませんでした。絵コンテは、枝を掴んでトンネルを登るサツキの動きまで細かく指示しているにもかかわらず、本編で確認できる白い生物については完全に沈黙しています。さらに、付録の「欠番」や「追加」となったカットの記述の中にも、該当シーンにおける生物の追加や変更に関する話題は見当たりませんでした。

ススワタリとの関連性と未解明の生態

描かれているはずの生物に対する説明が皆無であることは、確かに不可解です。絵コンテ857番の直前のカット、すなわち木のトンネルの中でススワタリたちがサツキを見送る場面のコンテの横には、「これでススワタリの出番オワリ」とはっきりと記されています。この記述から、次に登場する謎生物たちがススワタリの亜種である可能性は低いと考えられます。そもそも、彼らにはススワタリと異なり、目が描かれていません。

この謎の生き物が、何らかの理由で「出番オワリ」となったススワタリの代役として急遽追加されたものなのか、あるいは塚森という森の奥深さに潜む、また別の種類の不思議な住民なのか、その真相は依然として謎に包まれています。現実の日本に近い世界観でありながら、トトロやネコバスが存在する設定を考えれば、塚森の奥深くには、まだ私たちが知らない多様な生き物たちが暮らしているのかもしれません。形状に似合わず、かなり素早く動いていたこれらの謎生物たちの生態について、想像が膨らみます。

この発見は、『となりのトトロ』という作品が、何度見ても新たな発見と驚きを与えてくれる、計り知れない魅力を秘めていることを改めて示しています。


参考文献: