トランプ氏のウクライナ停戦構想:中国関与と傭兵派遣の提案、揺れる欧米同盟

ドナルド・トランプ前米大統領が提示するウクライナ停戦構想が国際社会の注目を集めています。その内容は、米国の負担を最小限に抑えることを主眼とし、ウクライナ戦争後の平和維持軍に中国を含める提案や、米軍に代わる民間軍事会社の派遣を議論するといった大胆なもので、欧州同盟国の間で波紋を広げています。これは、複雑な地政学的状況下で、米国が新たな国際関与の形を模索している現状を示唆しています。

中国軍の平和維持軍派遣提案と欧州の反発

トランプ氏のサプライズ提案

フィナンシャルタイムズ(FT)が報じたところによると、トランプ氏は先月18日、ホワイトハウスで開催された欧州首脳およびウクライナのゼレンスキー大統領との会議で、ウクライナの平和維持軍に中国軍を派遣することを提案しました。米国と欧州は現在、ウクライナの戦線に約1300キロの非武装地帯を設定し、欧州中心の多国籍平和維持軍を派遣する案を協議しています。この提案は、中国を主要なアクターとして国際的な平和維持活動に引き込む可能性を秘めています。

ロシアの旧提案との関連性とウクライナの拒否

2022年のロシアによる侵攻初期に、ロシアは国連安全保障理事会常任理事国5カ国(米国、ロシア、中国、英国、フランス)がウクライナの安全を保証すべきだと主張しました。ウクライナが攻撃された場合、ロシアと中国から軍事介入の承認を得る必要が生じるため、ウクライナはこの主張を受け入れられませんでした。トランプ氏の中国軍派遣提案は、ロシアの旧提案の一部を間接的に受け入れる形となり、その意図が国際社会で議論されています。

欧州首脳とゼレンスキー大統領は、中国が事実上ロシアのウクライナ侵攻を支持していると見なし、この提案を拒否しました。さらにゼレンスキー大統領は、緩衝地帯の設置自体にも反対の立場を明確にしており、和平交渉は難航しているとみられています。

ホワイトハウスのオーバルオフィスで欧州首脳らとウクライナの安全保証を議論するトランプ前米大統領ホワイトハウスのオーバルオフィスで欧州首脳らとウクライナの安全保証を議論するトランプ前米大統領

米軍に代わる民間軍事会社の派遣案

米国の「新たなアプローチ」

英テレグラフの報道によれば、トランプ政権は戦後のウクライナに米軍ではなく米国の民間軍事会社(傭兵会社)を派遣する案を欧州同盟国と協議しているといいます。トランプ氏は以前からウクライナへの米軍駐留に反対してきましたが、この新しいアプローチは、その原則を固守しつつも、ウクライナにおける米国の影響力を維持しようとする試みと解釈されています。

過去の事例と民間軍事会社の役割

米国はかつて、イラクやアフガニスタンで民間契約会社を広範に活用した実績があります。これらの民間軍事会社は、ウクライナの最前線防御施設や近隣軍事基地の再建に貢献する可能性があります。また、米国とウクライナが鉱物協定を締結し、米国企業がウクライナ市場に進出する可能性が生じている状況で、国内の米国企業および資産を保護する役割も担うことができると期待されています。

欧州同盟国の見方と抑止力

欧州もまた、民間軍事会社の派遣案に対して前向きな反応を示しています。戦後のウクライナの安全保障には米国の関与が不可欠であるとの認識があり、米国傭兵会社の存在だけでも、ロシアによる再侵攻に対する強力な抑止力となると判断しているためです。ある英政府関係者は、「米国旅券所持者がウクライナに存在すること自体が、プーチン大統領に対する抑止力を強化するだろう」と述べています。

平和交渉の難航と「欧州責任論」

トランプ氏の国内支持層への配慮

トランプ氏のこれらの提案は、自国軍の負担を軽減し、自身の支持基盤である「MAGA(米国を再び偉大に)」層からの反発を最小化するためのものと解釈されています。トランプ政権は、欧州がその責任を十分に果たさず、米国にばかり負担を負わせようとしているとの見方をしています。

ホワイトハウスとロシアの共通見解

米アクシオスが報じたところによると、トランプ氏は平和交渉の進展が難航しているのは欧州の責任だと考えています。ホワイトハウスは、一部の欧州指導者が表向きはトランプ氏の停戦努力を支持しながら、裏では戦争を煽っていると見ているようです。あるホワイトハウス関係者は、「欧州が(ウクライナに)戦争を延長する非合理的な期待を密かに助長しながら、米国がその費用を負担することを期待すべきではない」と語っています。

驚くべきことに、ロシアもこれと同様の主張を展開しています。RIAノーボスチ通信によると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、上海協力機構(SCO)首脳会議の場で、「我々は平和的解決に向けたトランプ大統領の努力に感謝する」としつつ、「ところが欧州国家はこうした努力を妨害している」と主張しました。

トランプ氏が提示したとされる合意期間の9月1日を翌日に控えた時期でも、ロシアは大規模な空襲を継続していました。ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は、当時の演説で「ロシア軍がほぼ全体の戦線に沿って休むことなく攻勢を継続している」と述べ、「現在、戦略的主導権は全面的にロシア軍にある」と強調し、戦況におけるロシアの優位性を改めて主張しました。

ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長


参考文献

  • フィナンシャルタイムズ (Financial Times)
  • テレグラフ (The Telegraph)
  • アクシオス (Axios)
  • RIAノーボスチ通信 (RIA Novosti)