シニア起業が過去最高水準に:人生100年時代を拓く新たな働き方と成功の鍵

近年、日本において「シニア起業」が著しい増加傾向を見せています。2024年に設立された法人の中で、代表者が60代以上を占める割合は18.6%に達し、2000年以降で過去最高を記録しました。「人生100年時代」が到来する中、多くの人が65歳で迎える定年後の新たな選択肢として、起業が注目を集めています。本記事では、シニア起業の魅力、成功への留意点、そして実際の成功事例や国・自治体による支援策を深く掘り下げていきます。

経験を活かし64歳で再出発:福島賢造氏の貿易事業

長年の経験と知識を活かし、定年後に新たな道を切り開いた一例が、KFトレーディングカンパニー代表の福島賢造氏(76歳)です。福島氏は40年間勤めた大手総合商社、三井物産を63歳で定年退職した後、「体は元気だし、引退するにはまだ早い」という思いから、2013年に64歳で一念発起し、起業しました。同社では、福島氏が会社員時代に長年担当していた化学品の貿易事業を手がけています。

福島氏が主に扱うのは、大手企業が採算性から避けるような小規模な20トンクラスの取引です。現在は肥料の原料となる化学品などを台湾や中国から仕入れ、国内の複数の企業に販売しています。福島氏は「会社員時代に多様な顧客とやり取りする中で、『少量だけ欲しい』といった大手では対応しにくい要望があることに気づいていました。そうしたニッチな分野であれば、個人でも十分事業ができるかもしれないと思ったんです」と当時を振り返ります。

シニア起業家として64歳で貿易会社を設立した福島賢造氏シニア起業家として64歳で貿易会社を設立した福島賢造氏

福島氏の働き方は、平日週5日、午前10時から午後6時まで東京都中央区のレンタルオフィスで勤務し、取引先とのメール対応や商談をすべて一人でこなすというものです。円安の影響で一時的に赤字になることもあるものの、年間を通しては採算が取れているといいます。福島氏は笑顔で「損をすると会社員の時は上司に怒られましたが、今は自分が我慢すればいいだけ。個人でリスクを負える範囲で事業をしています」と語り、自身の裁量で事業をコントロールできる喜びをにじませています。

商売の喜びと生活の張り:モチベーションの源泉

福島氏にとって、何が働く上でのモチベーションとなっているのでしょうか。彼は「これまでの人脈を最大限に生かして商売ができるのは嬉しいですし、苦労して契約が取れた時には大きな達成感を得られます」と話します。毎日決まった時間に起床し、オフィスに向かうことで、規則正しい生活リズムを維持できている点も大きいとのこと。「やるべきことがあるのは良いことです。生活にも自然と張りが出ますね」と、セカンドキャリアの充実ぶりを強調します。

10年以上にわたり事業を成功させてきた経験者として、福島氏は起業に関心を持つ人々へ次のようなアドバイスを送ります。「現役時代の知識や経験を直接生かせる業務が最もおすすめです。大失敗して取り返しがつかなくなる事態は避けたいので、リスクを自分でコントロールできる分野を選ぶのが賢明でしょう。会社はいつまでも面倒を見てくれるわけではありませんし、定年後の人生は非常に長いです。もしチャンスがあれば、ぜひ挑戦してみてほしいですね」。

シニア起業、過去最高の背景と国・自治体の支援

高まるシニア起業の存在感

福島氏のようなシニア起業家は、今や社会で確実に存在感を高めています。帝国データバンクの2024年新設法人動向調査によると、起業者の年齢が60代以上の割合は18.6%に達し、2000年以降で過去最高を記録しました。この割合は10年以降、15~16%台で推移していましたが、ついに18%台に突入した形です。新設法人数全体も2000年以降、右肩上がりが続く中で、シニア層の起業が特に顕著な伸びを見せています。

従業員を抱えない「一人起業」が多いことも特徴です。帝国データバンクの担当者は、「定年を迎えた後、同じ企業で継続雇用されても給与が下がることが多い現状があります。それならば、長年培った経験やスキルを生かして独立し、より自由に働こうと考える人が増えたのではないでしょうか」と、この動向を分析しています。

充実する公的支援制度

こうしたシニア起業の伸びの背景には、国や地方自治体による手厚い起業支援策も大きく影響しています。日本政策金融公庫では、55歳以上を対象に、事業を始めるために必要な設備購入費や運転資金に充てられる融資制度を実施しています。この融資制度の利用件数は、2015年度の1625件から2024年度には1811件へと着実に増加しています。主な融資先は「飲食店、宿泊業」が全体の約4分の1を占め、サービス業や「医療、福祉」の分野が続いています。日本政策金融公庫の担当者は「起業が人生の選択肢として確実に定着してきた証拠です。無担保で利率も低く設定し、融資を利用しやすいように工夫しています」と説明します。

また、東京都も55歳以上向けの創業サポート事業を展開しています。融資を受ける前には専門家による事業計画相談が可能で、融資後5年間は経営の専門家から最大45回のアドバイスを受けられる「伴走型」の支援を提供しています。東京都の担当者は「事業を長く継続してもらうため、きめ細やかなサポート体制を整えています」と述べ、単なる資金提供にとどまらない総合的な支援で、シニア起業家の成功を後押ししています。

まとめ

シニア起業は、「人生100年時代」を豊かに生きるための有効な選択肢として、その地位を確立しつつあります。福島賢造氏の事例が示すように、長年培ってきた専門知識や経験を活かし、リスクを適切に管理しながら新たな挑戦をすることは、個人のやりがいや生活の質の向上に繋がります。

国や自治体による充実した支援制度も、シニア層が起業へと踏み出す大きな後押しとなっています。これらの支援を積極的に活用することで、定年後の不安を解消し、新たな事業を通じて社会に貢献し続けることが可能です。シニア起業は、個人のセカンドキャリアを充実させるだけでなく、社会全体の活性化にも寄与する、ポジティブなトレンドとして今後も注目されていくことでしょう。

参考文献