学園ドラマや恋愛ドラマに心躍らせるのも良いが、時にはミステリードラマが提供するスリルと緊張感こそが、ドラマ鑑賞の醍醐味となるだろう。特に、人間の心の闇や社会のひずみを映し出す「異常犯罪」を扱った作品は、観る者に強烈な印象を残す。本稿では、そんな中でも特に背筋が凍るような猟奇的事件を描き、視聴者の好奇心を掻き立てるミステリードラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』の魅力を深掘りする。
ドラマ「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」の概要
『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は、2016年にフジテレビ系で放送された刑事ドラマである。脚本は古家和尚が手掛け、主演の波瑠をはじめ、横山裕、要潤、林遣都、原田美枝子、渡部篤郎といった実力派キャストが名を連ねている。
物語の主人公は、優秀な成績で警察学校を卒業した新人刑事・藤堂比奈子(波瑠)。真面目な刑事である彼女は、同時に心に深い闇を抱えている。比奈子が刑事になった動機は、人を殺す者と殺さない者の「境界線」を解明することだった。痛ましい遺体と対峙するたびに、彼女は殺人犯の心理に異常なほどの興味を抱き、自身の疑問の答えを求めながら、東海林泰久(横山裕)ら先輩刑事や監察医・石上妙子(原田美枝子)らの助けを得て、様々な異常犯罪者たちと対峙していく。
ドラマ「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」で主人公の藤堂比奈子を演じる波瑠さん
視聴者を惹きつける「ON」の注目ポイント
主人公・藤堂比奈子の特異な内面
本作の最大の魅力は、やはり主人公・藤堂比奈子のキャラクター設定にある。彼女が抱える「異常な犯罪への興味」は、一般的な刑事ドラマの枠を超えた深層心理を描き出す。善悪の境界線で揺れ動く比奈子の姿は、視聴者に強い共感を呼び、時に戦慄さえ感じさせる。犯罪者の心理に深く踏み込むことで、彼女自身の心の闇も浮かび上がり、その複雑な内面が物語に一層の深みを与えている。
原作の評価と衝撃的な事件描写
原作は内藤了によるミステリ小説「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズであり、その第1弾「ON」は第21回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞している。この評価が示す通り、本作が扱うのは単なる事件ではなく、「猟奇的」と称されるような異様な犯罪ばかりだ。口に大量の飴玉が詰め込まれ腹を切り裂かれた少女の遺体、口にブリーフを押し込まれた男性の遺体、口いっぱいに100円玉が流し込まれた遺体など、その遺体描写は強烈なインパクトを放ち、放送当時もその残虐表現が話題となるほどだった。しかし、これらのシーンは単なるグロテスクさを超え、ある種の芸術的な美しささえ感じさせる独特な世界観を構築している。
犯罪心理とプロファイリングの深掘り
『ON』は、単に衝撃的な映像で視聴者を惹きつけるだけでなく、犯罪者の心理やプロファイリングの濃密さにも定評がある。例えば、氷漬けにされた遺体が椅子に座ったまま発見される事件では、通常の隠蔽工作とは異なる「引越し」のような感覚で遺体に愛着を持つ犯人の心理が詳細に分析される。こうした、常識では考えられない犯罪者の深層心理に迫る描写は、まるで深淵を覗き込むかのようなゾワゾワとした感覚を与え、視聴者の知的な好奇心を強く刺激する。高度なプロファイリングを通じて事件の背景にある異常な動機が解き明かされていく過程は、ミステリーファンにとって大きな見どころとなっている。
比奈子を取り巻く人間関係の温かさ
過激な描写が多い一方で、比奈子を取り巻く人間関係は、この作品に儚くも温かい光をもたらしている。彼女の特異な興味を良くも悪くも受け止める心療内科医の中島(林遣都)や、比奈子を「こちら側」に引き戻してくれる先輩刑事・東海林(横山裕)との関係性は、彼女がギリギリの精神状態で事件に向き合う中で、唯一無二の心の支えとなっている。こうした対極に位置する人間関係が、物語に深みと人間味を与え、視聴者を強く引き込む要因となっている。
結論
『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は、単なる刑事ドラマにとどまらず、猟奇的な事件描写、複雑な犯罪心理、そして主人公の特異な内面を通じて、ミステリードラマの新たな地平を切り開いた秀作である。スリルを味わいたい方、人間の心の闇に迫る作品に興味がある方は、ぜひ一度この深淵な世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
参考資料
- 古家和尚(脚本)
- 内藤了(原作「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズ)
- フジテレビ系『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』番組情報