麻布学園130周年:吉原理事長が語る危機克服と未来への戦略

創立130周年を迎えた名門・麻布学園は、その長い歴史の中で数々の変革と挑戦を乗り越えてきました。学校法人麻布学園理事長の吉原毅氏は、学園が直面する現代の課題と、未来に向けた戦略について深く語っています。創立者である江原素六の精神を受け継ぎながら、いかにして学園の教育理念と環境を次世代へと繋いでいくのか。本稿では、財政的な苦境から校舎の老朽化、そして未来の教育のあり方まで、多岐にわたる麻布学園の取り組みとその展望を掘り下げます。

創立130周年の節目:伝統と革新の狭間で

麻布学園は今年、創立130周年を迎えましたが、記念行事は8月3日にサントリーホールで開催された特別演奏会のみとなりました。これは、指揮の鈴木優人氏とピアノの山下洋輔氏という著名なOBを招いての、学園の芸術的側面を象徴する催しです。しかし、この簡素化された祝典の背景には、学園が直面する具体的な課題があります。その最たるものが、校舎の老朽化問題です。1932年築の鉄筋3階建て本校舎は躯体こそ丈夫であるものの、築90年以上が経過し、耐震補強済みの理科棟や芸術棟とは対照的に、大規模な改築が必要な段階にあります。建設費の高騰が続く中、すぐに建て替えることは学園の財務状況を再び厳しくしかねないため、まずは空調設備の更新やトイレの改装といったアメニティーの改善から着手し、見違えるように清潔で快適な環境へと変化させています。

麻布学園の過去と現在:生徒たちの変化

吉原理事長自身の学生時代を振り返ると、当時の麻布学園は校舎の中が「ボロボロ」で、教室の後ろにネズミが住み着き、床板が腐って穴が開くこともあったと苦笑します。当時は1クラス55〜60人という大人数で、必ずしも全員が出席するわけではなかったため、生徒数分の机がないことも珍しくありませんでした。多くの生徒が「一生懸命さぼった」という当時の自由奔放な校風がうかがえます。しかし、現代の麻布学園の生徒像は大きく変化しています。理事長は、最近では6年間皆勤を達成する生徒が多数いることに驚きを示し、「昔はほとんどいませんでしたから、最近の生徒さんはみんな真面目ですね」と語っています。この変化は、時代の流れとともに教育環境や生徒たちの学習意欲が進化していることを示唆しています。

麻布学園の正門と校道。右に見えるのはカタール大使館で、将来的な校道拡幅の構想が語られる場所。麻布学園の正門と校道。右に見えるのはカタール大使館で、将来的な校道拡幅の構想が語られる場所。

未来への投資:校道拡幅と財務戦略

校舎建て替えに向けた長期的な課題として、校門から続く校道が幅6mしかなく、既存不適格であるという問題があります。将来的な建て替え工事や生徒の避難路として、公道に接する校道には幅10mが義務付けられています。創立時には公道に接する広大な土地を保有していたものの、当時の財政難から切り売りされてしまいました。この状況を打開するため、吉原理事長は「発想の転換」として、校道拡幅の可能性を秘めた隣接する建物を投資物件として購入するという大胆な戦略を打ち出しました。この購入には30年ローンを組み、賃貸収入とローン返済額がほぼ同額となるよう計画されました。東京都からは「都内の私立学校で賃貸マンション経営をするのはお前の所だけだ」と難色を示されたものの、将来的な校道拡幅という明確な目的を提示し、説得に成功しました。さらに、使用していないグラウンドの一部敷地を売却し、これもローン返済に充てることで、堅実な財務運営を進めています。

次なる10年を見据えて:教育の「ソフト」か「ハード」か

この計画が順調に進めば、ローン返済開始から約15年後には、次の大規模な手を打つことが可能になります。その時、理事会で検討されるのは、本校舎の全面的な建て替えを行うのか、それとも教育の「ソフト面」である国際交流プログラムの拡充や理科・芸術教育のさらなる強化に投資するのかという重要な選択です。吉原理事長は、どちらの方向性も学園の未来にとって不可欠であるとし、これからの理事会で慎重に議論を重ねていく考えを示しています。麻布学園が直面する課題は多岐にわたりますが、吉原理事長を筆頭とする学園関係者は、創立者の精神を胸に、教育の質と環境の両面から、次世代を担う生徒たちの育成に尽力しています。

麻布学園の未来は、過去の歴史と現在の課題を乗り越え、戦略的な投資と教育理念の深化を通じて、新たな価値を創造していくことにあります。伝統を重んじつつも、時代の変化に対応し、常に最良の教育を提供し続けるという決意が、学園の持続的な発展を支えることでしょう。


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